Ep.57 ヒロイン参戦!?

 ライトだけでなく、フライにもクォーツにも、更にはレインとルビー、フェザーお兄様にまで特訓に付き合って貰った甲斐あって、初等科の魔力卒業試験は無事突破!なんと、学年で10位の成績を取った!ばんざーい!!

 貰った順位表は小さな手作りの額に入れてお母様とお父様に送った。


 そして今日から、私達は中等科一年生になる……のだけれど、正直初等科から繰り上がりの友達が多いし、中等科から編入する子達もほぼほぼ貴族だから正直あまり新鮮味はない。ヒロインであるマリンちゃんが入学してくるのは高等科だから、まだ先だしね。ちなみに誘拐事件の時の火傷は結局消えず、私の額にちょっといびつなハートマークとして刻まれたままだ。普段は完全に前髪に隠れてるけどね。


 それにしても、どこの世界でも式典でのお偉いさんのお話はどうしても長いものなのね……。ちょっと頭がぼんやりしてきたかも……って、いやいや、駄目だ。私これでも皇女ですし、皆の模範になるようにビシッとしてなきゃ!と、眠気でふらふら揺れてた頭と背筋をしゃっきり伸ばしたとき、丁度新入生代表として壇上に向かい歩いているライトと目が合う。ライトが然り気無く壁際の時計に視線を投げ、再び私を見た。その口が、声は出さずにパクパクと動く。『あと少しだから頑張れ』と。

 あのフェニックスでの誘拐事件後の『護る』宣言から日増しに過保護になり今やすっかり私の保護者と化したライトは苦笑混じりに私を労ってから、一瞬で表情を切り替えて壇上へ上がり堂々とした態度で新入生代表の挨拶を始めた。元から整った容姿なのと、六年生の間にまた一気に伸びた身長もあって中等科のお姉さま方から感嘆の声があがる。これは……、明後日やる新入生歓迎の夜会ではダンスのお誘い殺到で大変だろうなと思った。


「式典の最後に、異例ではありますが本年度の新入生から優秀な4名を今年度の生徒会役員として任命します。呼ばれた生徒は、壇上に上がりなさい」


 ライトの言った通り、新入生代表挨拶が終わり拍手が巻き起こった後は、入学式もお開きの流れになった。生徒会の役員は、成績はもちろんだけど、国を導いていく貴族として特に必須である魔力の資質を基準に選ばれることが多いのだ。魔力と言うものは本来、身体の成長に合わせて総量も大きくなって行くものなので、本来は年齢が上の人ほど魔力も高くなる中、先輩達を差し置いてまで選ばれる資質を持つ生徒が4人も居るなんて……と、アナウンスに周りがざわめく中、名前を呼ばれたのは当然と言うかなんと言うか。

 新入生代表にも選ばれたライトと、ライトと同点で学年首席で初等科を卒業したフライ。そして、二人とわずか一点差で惜しくも二位での卒業になったクォーツだった。


(あれ?何か変な音が……)


「……初対面にも関わらず失礼ながら申し上げますが、あまりキョロキョロされますと品がないと見られてしまいますよ」


「ーっ!ごめんなさい、わたくしったら。ご忠告ありがとう、気を付けますわ」


 フライの名が呼ばれた瞬間に、ギリッと妙な音がしたので辺りを見回したら、隣に座っていた黒に近い緑の髪に瞳をしたメガネ君に小声で注意を受けてしまった。メガネ君は生真面目そうながらキリッとして端正な顔立ちで、ピシッとした雰囲気的に『委員長』と呼びたくなった。名前も知らないけど。

 さて、そんな話よりも今は壇上に立ってる皆についてだ。役員に選ばれるのは名誉なことだし、三人ともいかに努力家かは私も知ってるから納得だしいいんだ。むしろ自分のことのように誇らしく、嬉しく思う。

 でも、でも……!と、私は一人自分の席に腰かけたまま身を縮こまらせた。図らずも四大王家の内3カ国の皇子の名前が上がったことで、最後の一人は水の皇女である私じゃないかと、周りの視線がこちらに集まってしまったのだ。自分が如何に出来損ないか痛いほど身に染みてわかっている私としては、その期待こそがとにかく辛い。


(わーんっ、見ないで下さい!残念ながら私、魔力実技だけは本当に本当に苦手でまだまだ未熟者だから選ばれるわけ無いんですーっ!!)


 内心でそう懺悔しながら肩を竦ませる私を、壇上からライトも、フライも、クォーツもじっと見ている。周りの期待の空気と私の実力の差をよく知ってるから心配してくれてるのだとわかって、折角の栄誉なご指名の場に居る友達に余計な心配はかけまいと、改めて胸を張って笑って見せる。

 生徒会に選ばれないからなんだ!魔力の実力なんて、コツコツ頑張って伸ばしていけばいいのだ!と開き直って、皆の名誉な場面を目にしっかり焼き付けておこうと改めて壇上を見たその時、頭の奥でバチッと記憶が弾けて。壇上に並び立つ三人の姿に、もう少し大人になった状態の彼等が同じように壇上に立つスチルの光景が重なって見えた。そうだこれ、ゲームの高等科でヒロインが生徒会入りを選んだ場合に起きるイベントスチルにそっくり……!


 ってことは、シナリオ通りに行くなら4人目の紹介前にこうアナウンスがかかるはずだ。


「『4人目の役員は、近年でも非常に珍しい、一般市民でありながら炎と水の二つの魔力を持つ、本年度から特待生として本学院に入学した女子生徒です』」


「……っ!?」


 思い返していたのと全く同じアナウンスに、周りの生徒たちと、私の心の中がざわめく。周りのざわめきは『4人目はフローラ皇女じゃないのか!?』っていうものだけど、私の心境だけは違った。

 嘘、あり得ない。だってまだここは中等科で、私達はまだ13歳で、ゲームのシナリオの始まりにはほど遠くて、だから。


「特待生として参りました、マリン・クロスフィードです!皆さん、仲良くしてくださいね!!」


 壇上に立ち天真爛漫な笑顔でその名前を名乗る、鮮やかな青髪に黄色い瞳のヒロインちゃんの姿に、私はただただ混乱した。







「いいか!?今日は寄り道せず、ガーデニング係の花壇の世話はクォーツに任せて、迷子にならないようまっすぐ寮に帰るんだぞ!わかったな?」


 入学式を終えるなり校舎裏に私を引きずり込んで、私の両肩を掴んだライトが真剣な表情で言う。彼は一時、マリンちゃんから私を“悪役”だと散々吹き込まれそうになった過去から、彼女が私に敵意があるんじゃないかと心配してくれたようだった。私もちょっと警戒してたけど、入学式が終わって一度近くでご挨拶したマリンちゃん、可愛かったなぁ。普通にアニメとかで見てた通りの無邪気で可愛い雰囲気だったし、彼女も“転生者かも”っていうのは私の勘違いだったのかなと思っている。私が転生者でもしヒロインになったなら、悪役皇女にはまず近づけないもん、恐いし。

 それにしても今の状況。ここ一年でかなりカッコよさを増したメインヒーローと人気の無い場所で二人きり……。傍目にはかなり美味しいシチュエーションなのに、哀しいかな、彼の台詞は最早完全にただのお父さんである。


「そんな心配してくれなくて大丈夫だよ。ちゃんと一人で帰れるって!これでも同い年なんだから、子供扱いは止めてよね。ライトだって見た目ばっか育ってもまだまだ子供っぽい所ある癖に……」


「ほお……、今朝入学式の会場がわからずに危うく初等科に行きかけて皆に大捜索された後俺に抱えられてギリギリ式の開始直前でホールにたどり着いた身の分際でそう言う事言うのはこの口か?」


「いひゃいいひゃいっ!ごめんなさいお父さん!!」


 ミョーンと私のほっぺたをつまんでいた両手を離して、ライトが『誰がお父さんだ!』と私の頭を叩くけど。でもさぁ、言動は過保護だし世話焼きだし頼りになるし、なんか側居ると安心するし、完全にお父さんじゃんね。言ったら怒るから言わないけど。


「聞いてんのか?」


「あいたっ!」


 ぼんやり考えていた私の額に走る小さな痛みは、お父さん……改めライトのデコピンだ。ちょっとむくれながら、ヒリヒリするそこを擦る。


「もう、何するのーっ!」


「お前が真面目に聞かないからだろ、頼むから心配させんなよ!何で俺一日のなかで俺自身のこと考えてる時間よりお前のこと考えてる時間のが長くなきゃいけないんだよ!!」


「えっ?」


 私、そんなにライトに心配かけてる!?と思わず聞き返すと、ライトが一瞬ハッとした顔になってから片手で口元を覆って視線を逸らした。


「……っ、いや、怒鳴って悪かった。別に変な意味じゃないぞ?お前どうにもほっとけないんだよ、危なっかしくて」


「まぁ、それは僕もライトに同感だね。この後は僕たちは生徒会役員の顔合わせに出なければならないし、レインも用があって君と一緒には帰れないんだろう?ライトが心配になるのもわかるよ」


「ーっ!フライ!」


 ライトの背後から草むらを掻き分けて現れたフライにも、『だから真っ直ぐ帰るように』と言われてしまう。


「出来れば中等科の校舎とか先に見て回りたかったけど……」


「止めときなよ、一人で行ったら君、確実に迷子になるよ。僕はライトみたいにわざわざ探しに行ってはあげないからね。大体、ライトが女の子だからといって甘やかしすぎるからフローラがいつまでも隙だらけなんじゃないか」


「え、私そんな隙だらけかな……!」


「お前が言うか……方向音痴のくせに。痛っ!!!」


「はいはい、余計なことは言わずにいくよ。もう集合の時間になるから呼びに来たんだから」


「わ、わかった!わかったから引き摺るな、お前に踏まれた足が痛いんだから!!」


 マイペースなフライは言いたいことだけ言い切ると、ライトを引きずって歩き出す。二人が校舎裏から出る前に、くるっともう一度振り向いてビシッと私を指差した。


「「今日は必ず真っ直ぐ帰りなさい、約束だぞ!/だよ!」」


「は、はい!」


 あまりの迫力に思わず背筋を伸ばして返事した私を満足げに見て去っていく二人を見て、思う。


「なんか、ライトがお父さんでフライがお母さんみたくなって来ちゃった。やっぱりもう少ししっかりしなきゃ駄目かな……」


 そんな私の呟きは、入学式日和な青空に溶けて消えていった。


    ~Ep.57 ヒロイン参戦!?~


  『楽しみにしてた中等科生活は、どうやら波乱の予感です!』



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