Ep.42 二人の王妃


 瓜二つの女性が描かれた二枚の肖像画に、綺麗に整えられたベッド。出窓の所にはガラスの花瓶もあって、真っ白い花をたくさん集めたような純白の花束が飾られてるから空き部屋では無いのかも。

 片方は強気に、もう片方は慈愛に満ちたら二人の女性の笑顔はまるで鏡みたいだと思って、勝手に部屋に入るのは良くないと思いつつも吸い寄せられるように肖像画の方へ近づいた。


「これ、フェニックスの王妃様……だよね。じゃあここ、王妃様のお部屋!?」


 自問自答した自分の言葉に『もしそうなら流石に不敬罪では?』と不安になったけど、すぐにそれは無いなと思い直した。フェニックス宮殿は大きく分けて4つのエリアに別れていて、客室として私が部屋を与えられた西棟から見て、フェニックスの国王様、王妃様やライトが暮らすメインの部分は一番遠い位置にあるし、特殊な許可証をもってないと結界に弾かれてしまって出入りが出来ないとライトが言っていた。だから、単にちょっとした冒険感覚で遊んでいた私が迷い込むことはあり得ない……多分。


 去年、学院の噴水の結界を何故かすり抜けて私と一緒に噴水に落ちたフライからは、『ミストラルの王族の血筋って、四大魔法と違う魔力を持ってるとかご両親から聞いたことない?』と聞かれたけど、てんで心当たりないしね。結界解除なんて出来ないよ、ヒロインのマリンちゃんじゃ有るまいし。


 その話はさておき……と、レースのカーテンを透かして射し込む麗らかな日差しに照らされた肖像画をもう一度見上げてみる。


「こうして見るとやっぱりすごく綺麗な方……、ライトがあの顔立ちなのも納得だわ」


 ライトの母君であり、キリリとして黙っているとクールで聡明そうな美女であるオリヴィア様は、髪と瞳の色こそライトと違うけど顔立ちは彼とよく似ているのだ。と、そこでようやく先程から2枚の肖像画に感じていた違和の正体に気がついた。

 右の肖像画と左の肖像画では、女性の瞳の色が違うのだ。学院入学前に一度お会いしたオリヴィア様の瞳は、すみれみたいな紫色。だから、ライトのお母様の肖像画は、すみれ色の双眸に勝ち気な色をにじませて微笑んでいる右の筈だ。なら、左の、穏やかに微笑んだ紅色の髪に金色こんじきの瞳の女性はどなた……?


「なんでだろ、左の人の方が、ライトに似てる気がするな……」


「悪い子ですねぇ、故人の部屋に忍び込むだなんて」


「ーっ!?」


 不意に響いた涼しげな声音と、私の口元を塞ぐように背後から回された手に肩が跳ねた。

 扉は閉めていた筈なのに、開閉した気配もないまま突然人が現れたからびっくりして固まったけど、警備の厳しい城内の部屋で悪い人が現れる確率は非常に低い。恐らく私を拘束してきたのは城に勤めてる誰かだろうと、『騒がないでくださいね?』と背後から念を押してくる声に素直に頷いた。

 『お利口ですね』とポンと私の頭を叩く感触の後、拘束が解かれる。振り向くと、執事服に身を包んだ年若いお兄さんが立っていた。多分、ハイネと同い年くらい。

 そうだこの人、ライトの専属執事をしてるお兄さんだわ。ネイビーの髪にグリーンの瞳に見覚えがあるもの。名前は確か……


「フリードさん……ですよね?」


「はい、フローラ様が晩餐のお時間になっても戻られませんのでお迎えにあがりました」


「もうそんな時間ですか!?すみません、ありがとうございます」


 にこっと笑ったフリードさんに手を引かれ、肖像画の部屋を後にする。お夕飯を頂く広間に向かう途中、フリードさんにあの部屋の事は他言しないよう念を押された。


「……特に、うちの皇子には決して話さないでくださいね」


「何故ですか?他の皆はともかく、フェニックス宮殿はライトのお家でしょう?」


 首を傾げると、フリードさんは困った顔で急に足を止めた。釣られて立ち止まると、両肩を掴まれ至近距離から瞳を覗き込まれる。青年特有の色気にドキッとしてしまう。なんでフェニックスの人ってこんな顔面偏差値高いの!?羨ましい!


「……良いですか?フローラ様は今日あの部屋で見たものを二度と思い出さず、他言もしません」


「他言しない……」


 男性への耐性の無さからパニックな私を見据えて、フリードさんがそうゆっくり言い聞かせる。ダークグリーンの双眸が、一瞬だけ月光のような銀色に見えた気がした。


 結局何であの部屋の事が秘密なのかはわかんないけど、『約束ですよ』と笑ったフリードさんの瞳がすっかり元の色に戻っていたことと、私の両肩を掴んだままだったフリードさんにハイネが『姫様から離れなさいこのロリコンが!!!』なんて飛び蹴りをかましたことの方が印象的で、すっかり肖像画の事は気にならなくなった私だった。

 まぁ、迷子になったなんて知れたら皆に笑われそうで恥ずかしいし、素直に内緒にしておこうっと。




 晩餐の後は、私の借りている客間にルビーがやってきて、新しいオススメのロマンス小説を借りた。まだ幼い頃から冷めきった仲であった両親を見て育ったせいで恋を毛嫌いしていた筈の公爵家の長男が、家庭教師を勤めている下級貴族の大人の女性に憧れに近い恋心を抱いてしまう……いわゆる、現代で言うおねショタものだった。ルビーはお兄ちゃんであるクォーツが大好きだし、この間借りた本のジャンルからしてもてっきり年上男性がテーマの方が好きなのかなと思ってたから、ちょっと意外だったけど。

 今回は間が合わず来られなかったレインにも是非勧めてくれとルビーが言うから、早めに読みきっちゃおうと思って裏庭の東屋にその本を持って行った。

 そしたら不意に耳に届く、聞き慣れた声。


 顔を上げて裏門を見ると、綺麗な女性と楽しそうに話していたライトが、二人で並んで門から出ていくところだった。


「え、だ、誰……!?」


    ~Ep.42 二人の王妃~









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