Ep.41 水も滴るなんとやら

 そんなこんなで夏休みは過ぎていく。実は相変わらず魔力実技はイマイチの駄目皇女な私は、日々空中庭園の木々に魔力で水をあげて訓練を欠かさずにいた。ついでにどう水を扱えば虹が出せるかとか、応用で魔力で出すそれらの温度を変えてお湯や氷を出せないかという遊び……じゃない。実験もしてみたりしながら。世の中、チャレンジ精神て大事だと思うの、うん。例え故郷フェニックスに帰る直前にお菓子をねだりに私の所に顔を出したライトをまた事故で水の滴るいい男にしてしまって珍妙なあだ名を付けられたとしても!そして夏なのにお湯ぶっかけて本当にごめんね、ライト。

 もちろん謝り倒してお詫びのマドレーヌをわんさか焼いて献上したけど、当のライトは慣れてきたのか苦笑いで『丁度剣術修業で腕を痛めてたから丁度よかった』と言っていた。私の水にファンタジーゲームみたいな癒しの効果がある訳じゃないし一体なんの話?と疑問はあるけど、皇女として私は早く魔法を上達させないと流石にヤバイ!毎日水やりに+αで二時間はやってるけど、やっぱり自主練だけじゃ駄目かなぁ?


 まぁそんな魔力修業のことは一旦置いといて、明日からはフェニックスに行くのでワクワクだ。建国祭自体はもう数日先だけど、遊ぶ時間も考えてちょっと早めに、建国祭より三日早い出発となっている。今回は従者や護衛だけつけての一人での訪問なので、心配性なお母様に『今夜はお母様と一緒に寝ましょう』と誘われた。断る理由も無いので、質は良いが華美じゃない、大人の女性らしいデザインのお母様のベッドに一緒に潜り込む。記憶が戻って以来、前世の年齢のこともあって甘えずにいたから五年以上ぶりになるお母様の腕の中は、なんだか落ち着く香りがした。


「フローラは学院の方でも魔法の練習を頑張っているようだけれど、帰ってきてからお気に入りの空中庭園にも毎日お水を撒いてくれているの?」


 布団にくるまってもすぐに眠れる訳じゃないので、二人でくっついたままお話をするなかで、ふとお母様が空中庭園の事を話題に出してきた。


「はい!あそこのお花達は常にガラス屋根に覆われてて自然な雨は浴びられないから、せめて魔力でと思って。あの……何か駄目な事がありましたか?」


 話ながらつい不安になる。何せ、私は魔力の劣等生。またの名をライトとフライいわく、『水も滴るいい男製造機(ライト限定)』だ。お母様が大事にしている空中庭園に、もしかしたら無自覚で迷惑をかけてしまってるかもしれないと思ったのだ。でも、不安げに布団に潜り目だけを出した私の頭を、お母様は優しく撫でてくれる。


「とんでもないわ!フローラがお世話してくれている範囲のお花達は他のエリアのお花達より元気一杯に咲いているわ。頑張ってお水をあげてくれて、ありがとう」


 優しい声と一緒にふわりと額に触れた柔らかい感触。お母様からおやすみのキスなんて前世の記憶が戻って以来初だ。照れ臭くて布団に頭から潜った私の背中を、お母様の手がポンポンと優しく叩いてくれる。段々眠くなってきちゃった。ブランやクリスを抱っこしてのお昼寝の時も思ってたけど、誰かの体温を感じてる時ってなんでこんなに安心出来るのかな……。


(駄目だ、眠い…………)


「…………もうひとつだけ聞くわね。あの絵本を読んだあと、何か体調に変わりはない?」


「体調、ですか……?」


 微睡んだ頭ではお母様が聞きたいことが上手く入ってこない。ただ至って元気ではあるので、うとうとしながらも必死にそれだけは伝えて私は意識を手放した。


「このままなにも知らずに、幸せに暮らして欲しいけれど……やっぱり難しいのかしらね」


 お母様がそう泣きそうな声で呟いていたことには、気づかないまま。











ーーーーーーーーーーーーー 

 さて、そんな訳で久しぶりに子供らしくお母様に甘やかされた翌日は、三回目のフェニックス訪問!ですが……


「ハイネ~……、暇だよーっ!」


「仕方がございませんでしょう、ライト様はご来賓のお客様のご息女方に囲まれてしまっておりましたし、フライ様、クォーツ様ならびにルビー様のご到着は明日ですからね。時間がおありなら、夏期休暇の課題でも済ませてはいかがですか?」


「無理よ、宿題なんて最初の一週間でみんな終わらせちゃったもん」


「あら、それは大変良いことですね」


「ーっ!うん!」


 誉められちゃった、嬉しくてニコニコになった私を見て、ハイネも笑う。まだ少女と言える年齢のハイネだけど、表情や仕草に妙な大人っぽさがあって綺麗なんだよね。立派なメロンも二つお持ちだし。うらやましい。

 それはさておき、私は長いおやすみの課題は必ず先に終わらせる派なのだ。優等生を目指してるとかそういう理由じゃなく、忘れっぽい私は後回しにしてるとそもそも何が宿題だったかわからなくなっちゃうから!!!

 ーー……もしや私のゲームやアニメでのこっちの世界の知識が曖昧なのもこの忘れっぽさのせいでは?

 だとしたら、こんな無駄に豪勢で可愛らしくてテンションが上がっちゃう客室のベッドに寝転がっている場合じゃない!


「……脳トレしなきゃ!」


「はい?いきなり何です?まだ10歳なのにそんな……、って姫様!?」


「でも脳トレはここじゃ無理ね、道具無いし。とにかく、暇だからってゴロゴロしてたら根が生えちゃうわ!ちょっとお散歩に行ってきまーす!」


 私も一応フェニックスから見れば他国の王族(かつ子供)なので、お城の中を少しなら自由に見学していいよと許可を戴いてる。だから思いきって、ゲームではスチル絵と固定背景しか出てこなくて細部がわからなかったフェニックス宮殿の中を探検すべく客室を飛び出す。


「迷子になったり、はしゃいで飾られている絵画や装飾品を壊さないで下さいねーっ!」


「はーい!気を付けるから大丈夫だよーっ!」


 平面だけどマップ見ながら色々探索はしてたし、小さいとき一回来たし、しかも私前世の記憶では17歳だから大人だし、迷子になんて……


「……なったわ」


 ここ、どこ?

 始めは小さいときに見たのと同じ場所やスチルの舞台、固定背景に使われた廊下とかなんかを見て楽しんでたのに、いつの間にかまるで見覚えのないお部屋に来てしまった。

 何となく階段をただ上へ、上へ、ひたすら上へと来てたから、とりあえずかなり高い位置にあるお部屋だとは思う。

 生まれて初めて見た螺旋階段にテンションがあがってかけ上がっちゃったのがいけなかったんだわ……!


「でも本当になんだろ、この塔だけすごく寂しい感じ……。人気が無いからかな」


 他の廊下と同じように明かりはついてるのに、なんだか薄暗い。心細いな、もう怒られても良いから見回りの兵士さんとか通ってくれないかな……。そしたらごめんなさいして部屋まで連れてって貰うのに。

 もしくはお部屋でもあれば……


「ーっ!」


 そう思った瞬間、びくびくしながら昇りきった階段の先に一枚の扉が現れた。天の助けだ!


「……なんだか、本当に天国に繋がってそうな綺麗な扉……」


 白樺の木に、繊細に彫り込まれた花々と、小さく散りばめられた色とりどりの宝石。扉だけでわかる。ここは高貴なお方の部屋だ……!


 でも、帰り道がわからないから後には引けない。恐る恐るノックしたけど全く返事がないので、落胆した。


「うーん、もしかして空き部屋かな?どうしよう、手詰まりか……!って、あれ……?」


 諦めきれずに手をかけたドアノブは、鍵に遮られる感覚もなくいとも容易く沈んで。蝶番が軋む音さえせず、扉は簡単に開いてしまった。

 予想だにしなかったことに驚いて、誘われるように中に入ってしまう。

 白と水色を基調とした清楚だけど質が良い調度品に囲まれた一室。その一番明るい場所、屋根を一部ガラス張りにしてわざわざ光を照らした一ヶ所に、フェニックスの王妃様の肖像画が向い合わせで二枚、並んでいた。


   ~Ep.41 水も滴るなんとやら~


『鏡のように笑い合う、同じで違った“二人”の微笑み』




   

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