Ep.37 着実に育つその“絆”は

 途方にくれていても仕方がない。ここは罰則覚悟で扉を内側から叩くなりすべきかと二人で検討を始めた時だった。バタバタと外が騒がしくなり始めたのは。


「な、何……んっ!」


「静かに。壁も扉も一見すればただのガラスだけれど、これは外からも中からも向こう側が透けない結界が施されたガラスなんだ。本来滅多に使われていない筈だし、こんな半端な時間に人が来るのはおかしい。……学院内だし大丈夫とは思うけど、念のため入ってくる人々が味方と確定するまでは声を出さないように。いいね?」


 私の口を背後から手で塞いだフライ皇子が、冷静な声音でそう忠告する。私も流石に恐くなって何度も頷いた。


 二人で息を殺す中、ガチャガチャと焦った様子で鍵を開ける音が止み、大きく音をたてて扉が開く。


「フライ!フローラ!!居るか!?」


「ーっ!ライト!!?」


 何と、真っ先に飛び込んできたのは少し息を切らしたライトだった。安心したのとビックリしたのとで、フライ皇子から離れてライトの方に駆け寄る。

 と、次の瞬間丸めたノートで頭をひっぱたかれた。


「いっ、痛いっ!!!」


「仕置きなんだから当たり前だ、心配かけやがって!」


「だからって女の子の頭をそんな良い音する強さでひっぱたくかな普通!!」


「俺は友達には男女問わず平等に接する質だ」


「ーっ!友達……!」


 おぉっ、成り行きの勢いかも知れないけど、初めてライトが私のこと“友達”って言ってくれたぞ!頭の痛みも吹っ飛んで頬を綻ばしていたら、今度は背後からポンと優しく頭に触れる手。振り向くと、その手の主は呆れ顔のフライ皇子だった。あれ?なんか機嫌悪い?


「最もらしい物言いに騙されない方がいいよ。いつの間にか、ずいぶんと親しくなってたんだね、君達」


「あ、はい。お陰さまで……?」


「……悪いことは言わない、友人は選んだ方がいいよ」


 ため息混じりのその言葉に怒ったライトが『何だよ、本気で心配して昼抜きで走り回って探したんだぞ!』と騒ぐ中、開けっ放しだった扉からもう二人、人影が現れる。


「あぁ良かった、2人とも無事で……!ソフィアさん、急なお願いにも関わらず鍵を開けて頂いてありがとうございました」


「いいえ、構いませんわ。無事見つかって良かったですね」


 そう話し合いながら入ってきたのは、フェザー皇子と、先日の運動会のお芝居で巫女様の役をしていた中等科の可愛い先輩。

 皆の話を聞くに、まずフェザー皇子が普段から真面目な弟(フライ)が朝から学校に来ていないことに気づいて捜索してみたら、フライ皇子はもちろん私まで行方不明になっていた。そこからどうやったかは知らないけど、今朝私に絡んできたご令嬢グループからフェザー皇子が“穏便に(ここ重要らしいです)”今朝の噴水突き落とし事件の詳細を聞き出す。しかし、そこから一切の足取りが掴めない。

 そこで、一度私の魔力と自分の魔力をリンクさせたことがあるライトが巻き込まれる。私の魔力を探ってライトが学院中探してくれた結果、優秀な彼は私達がこの薬草園に現れた事を感知。そしてフェザー皇子が内々にソフィアさんに鍵を借りに行って迎えに来てくれた結果がこの事態の真相なようだ。

 ライトは本気でお腹が空いてるらしく、いつもよりちょっとだけ、元気がない。


「では、私はお先に失礼しますね」


「あっ……!ソフィアさん!ありがとうございました!!」


 私達が納得した所で目的は果たしたと言わんばかりにそのまま去ろうとしたソフィアさんに、お礼を言いながら駆け寄る。驚いたように目を見開いたソフィアさんの白い手が、優しく私の頬に触れた。同性でも見惚れるような、愛くるしい顔立ちの年上女性に間近で見つめられながら頬を撫でられる感覚……。そっちの趣味は無いけど、ちょっとドキドキしてしまう。

 狼狽えつつも逃げずにじっとしている私をしばらく見たあと、ソフィアさんはふっと微笑んだ。ひどく安心したと言わんばかりに。


「よかった、やっぱり別人・・みたいね」


「え?」


「ふふ、ごめんなさい、何でもないわ。でもフローラさん、今日のこの体験は、しっかり覚えておいた方が良いと思うわ。あとで絶対役に立つから」


「は、はい……」


「ふふ、いいお返事ね。では、ごきげんよう」


 行っちゃった……。

 別れの挨拶が優雅すぎて、引き留める間も無かったわ。別人って、なんのこと……?それにあの顔の、ピンク色の髪、立ち姿に声も……何か見覚えある気がするんだよね。


「はぁ、もう18時か。通りで疲れた筈だよ全く」


「えっ、嘘っ、そんなに時間経ってたの!?」


 フライ皇子の呟きにビックリして声をあげた私に、苦笑したフェザー皇子が『結界の中は時の進みが捻れてしまうことがあるからね』と言った。そう言えばずっと気になってたんだけど、この世界にある主要魔力属性は炎・水、風・土の4つだけだ。結界って、ゲームには普通に出てきてたんだけど、現実では一回も耳にしたこと無いんだよね。この矛盾は何?


「あぁ、ミストラルは教会との関わりが少ない国だから知らないのか。この学院全体を護る防御障壁や、お前とフライが落下した噴水にかけられている結界は、普通の魔力持ちには使えない。本来、鍵もなく感知したり、まして迷い込むなんてあり得ない自体だろう。それくらい珍しい術だ」


「これらの結界は所謂“古代魔法”に分類され、現代には伝わってこなかった。それを唯一秘密裏に記録し、後世に伝えてきた教会が二宗派あるんだよ。フローラちゃんの国、ミストラルには、多分片方の宗派しか広まっていないだろうけどね」


「は、初耳です……!流石に年上だけあって、フェザー様は博学ですね!!」


 なんだそれは、そんな話はゲームでもアニメでもノベライズでも、もちろんこっちに転生してからも一度も聞かなかったよ!?


「まぁ、教会なんて町に教会があって祈りを捧げにいく一般市民か、婚姻の際にしか縁が無いからね。知らなくても無理はないよ。勉強したいなら、今度わかりやすい本か何か貸してあげようか」


「フライ様……!」


 一気に入ってきた情報にパニックになった私を、フライ皇子が擁護してくれて驚いた。振り向くと目が合って、一瞬たじろいだフライ皇子だったけど……次の瞬間、ふっとその表情が和らぐ。草原に吹き抜ける春風みたいな、優しい笑みだった。

 私ももちろん驚いたけど、そんなフライ皇子の変化に更に反応を示したのは、彼の兄と、親友である。

 2人とも意味深な笑みを浮かべて、フライ皇子に絡み出した。


「おや……、珍しいこともあるものだね」


「へぇ、お前こそずいぶん態度が軟化したじゃん。結界の中で何かあったのか?今気づいたけど、フローラが羽織ってるのお前のブレザーだろ」


「さあね、ご想像にお任せするよ」


「何だよ勿体ぶって!教えっ……んぐっ!」


「喧しい。君の大好きなお菓子あげるから、これ食べて黙って」


 逃げるフライ皇子に尚絡もうとしたライトの口に突っ込まれたのは、とても見覚えのあるパウンドケーキ。思わず叫んでしまった。


「あっ!それはフライ様の分として作ったのに!」


 フライ皇子が振り向いた、 ちょっとだけ、申し訳なさそうに。


「……ごめん、ライトお腹空いてたみたいだからあげちゃった」


 そう言われると、ライトの空腹も事実なので何も言えない。苦笑しつつ黙った私の頭を、フライ皇子の手がポンと再び叩いた。


「また明日、違うのをくれるんでしょう?……楽しみにしてるよ」


「……っ!フライ様っ……」


「“フライ”でいいよ。あぁ、でも明日は僕の部屋じゃなくて、中庭とかで貰おうか」


 少しばつが悪そうな顔のフライ皇子が提案したのは、先日彼抜きで私達が焼きいもを食べてた場所。あのときのフライ皇子は……ううん、フライは、私を冷たく見ただけで混ざりには来てくれなかった。

 そんなフライが今、ごく自然に笑いながら言う。


「他の皆と一緒に、ね」


「……!うん!約束ね!!」


 よかった、認めてもらえたんだ……!

 初めて笑いあった私とフライを見て、ライトが小さく肩を竦める。


「ほら、やっぱ仲良くなれたじゃないか」


「おや、ライトが焚き付けたのかい?」


「ははっ、まぁな。だって、美味しいものは皆で食べた方が旨いんだろ?」


 『食べれる量は減っちまうけど』と言う不満げな最後の呟きに、皆して思いっきり笑ってしまう。

 明日のお昼のおやつは、背中を押してくれたお礼も込めてたーくさん、ライトの好きなもの作ってあげようかな。


   ~Ep.37 着実に育つその“絆”は~


  『きっと、結界にさえ、阻めない。そんな友情が欲しかった。きっと、……ずっと』






 これでフローラの味方は(ラスト一名を除いて)出揃いましたので、次回から少しずつ波乱が始まります!


 

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