Ep.31 でも、今の私は独りじゃないらしい
落ち込み気味の私の気分とは真逆の爽やかな秋晴れの空に、紅葉が一枚飛んでいく。花壇脇のベンチからそれを眺めていたら、不意に目の前に一輪の花が差し出された。
ビックリして顔をあげた私を見下ろし、クォーツが微笑む。その片手にある白いコスモスがふわりと揺れるのに誘われて手を伸ばすと、クォーツは優しい手つきで私の手にコスモスを握らせた。
「クォーツ、これって……」
「最近元気が無いみたいだから、プレゼント。花を見ると気持ちが安らぐでしょう?」
「……!うん、ありがとう!」
落ち込んでるのは出来るだけ気づかれないようにしてたつもりだったけど、バレていたらしい。でも、然り気無い優しさと穏やかな笑顔のお陰で元気が出てきた。
失くさないようにコスモスを髪を結んでいるリボンに固定する私を見ながら、クォーツがちょっと気まずそうに語る。
「フライとちょっと揉めちゃったみたいだけど、スプリングって昔から色々と策略とか陰謀が多い国で、フライ自身ちょっと疑心暗鬼になっちゃってるだけだと思うんだ。きっとフローラは傷ついただろうし、僕に“許してあげて”とか偉そうな事は言えないけど……」
「うん、大丈夫。気にして……無くはないけど、クォーツとお花のお陰で元気出てきた!フライ様に嫌われちゃったら、……クォーツや皆にも嫌われちゃうんじゃないかなってちょっと不安だったの。ほら、フライ様の方がクォーツ達との付き合い長いものね」
“友達の友達”は、よくて顔見知りか知人が世の常だ。まして、“親友の敵”となった時、本来悪役ポジションだった私に向く皆の目がどうなるのか、それが不安だったんだなと今さらだけど気づく。
そんな私の不安に気づいてたかのように、クォーツは笑って私の肩に手を置いた。
「そっか、良かった。……僕は確かにフライの親友だよ。でも、あの日僕とルビーを信じぬいてくれた君の事も、大切な友達だと思ってる。だから、一人で抱え込まないでね。皆も心配してたし」
「うん!って、皆って?」
そんなにわかりやすかったかな、私。と、そう思った瞬間、私の身体を誰かが背後から抱き上げる。ビックリしすぎて変な声が出た。
「にょわっ!?なっ、何!?何事!?」
「『にょわっ』、にょわって……!」
「ら、ライト!?そんなに笑わなくてもいいでしょ!」
「いやだって、『にょわっ』は無いだろ!こっちがビックリだわ」
抱き上げた私を見上げながら、ライトが遠慮なく声を立てて笑う。それを見て、クォーツがあきれたように肩を竦めた。
「ライトが驚かすからでしょ?下手に皆で聞くと萎縮しちゃうからって僕に代表させたくせに、結局皆して出てきちゃうんじゃ意味無いじゃないか」
「お兄様がいつまでも合図をくださらないからですわ!今か今かとずっと見てましたのに!」
「そうよ。フローラ、私とルビーが先生からお芋頂いたから持ってきたの、皆で焼いて食べよ!」
いつから見ていたのか、レインとルビーも現れて、お掃除で集めた葉っぱの山にさつまいもを突っ込んでいく。いつも通りの皆だ。それだけのことなのにすごく、ほっとした。
ライトの魔力で美味しく焼き上がったお芋を、ワイワイと騒がしい仲間達と食べる。些細すぎて愛しい平和を噛み締めている。と、遠くから誰かがこちらを見ているのに気づいた。
鮮やかな青緑の髪に、澄んだ空色の双眸。整った顔立ちは中性的で、制服でなければ美少女にも見えそうな男の子。彼は集まっている顔ぶれを見てから私を見据え、さっと背を向けて去っていった。
「フライ様……!」
思わず呟いた私の頭を、ライトがぽんと後ろから叩く。
「ま、あまり気にするな。風使いってのは気分屋なんだ、今日は駄目でも明日、明日が駄目でもまたその次には、気持ちも変わるだろうさ。俺も最初、これでもかって程嫌われてたしな」
「そうなの!?」
ビックリして声をあげた私の口を押さえて、いたずらっ子みたく片目を閉じたライトが『内緒だぞ』と笑う。
「たくさんぶつかって、喧嘩して、そこから見えてくるものもあるさ。な?」
「……私とライトみたいに?」
「ーっ!」
私達の初対面も、そういえば大喧嘩だったっけ。そう思い出して呟いた私に、そうだったっけと笑うライトはきっと、優しい人だ。
『仲良くしろ』とも、『諦めろ』とも言わない、その気遣いが嬉しかった。でも、だからこそふと不思議に思うんだけど。
「ライト……、私のこと最初嫌いだったでしょ?なのに何で助けてくれるの?」
「……っ!そう言えば、なんでだ……?いや、何故か気がつくと視界に居るんだよな、お前」
今の私は、存外気持ちが弱ってるらしい。
思わず心の弱いところから出た質問だったんだけど、悩ませてしまった。あーでもない、こうでもないと焼き芋片手に悩むメインヒーロー、シュール過ぎる……!
「まぁ、理由なんかハッキリとは無いんだけどさ。お前が俺に似てるからかな」
「……?類似点は髪色しかないけど?」
「アホ、そうじゃねーよ」
「いたっ!」
パコンと頭を叩かれて、しゃがみこむ。もう、せっかく見直したのに。でも、私とライト、似てるかなぁ?自分じゃわからないや。
「確かに、何でこんな守ってやらなきゃいけない気持ちになるんだ……?菓子が貰えるからか?」
最後のライトのそんな呟きは、秋風に拐われ消えていった。
~Ep.31 でも、今の私は独りじゃないらしい~
『すぐには駄目でもいつかフライ皇子ともきっと。そう思えるのは皆のお陰』
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