Ep.29 運動会は戦場
さて、色々あって皆に私の素がバレた夏休みが終わり四年生の二学期開始です。休み明け最初のイベントは、初等科高学年から中等科生徒までが集まる合同の運動会!
初等科は低学年は安全の為積極的な運動はさせないため、こんな変な範囲で合同運動会になってるんだそうな。別にそこまで過保護にならなくても、運動会くらい普通に全学年でやれば良いのにね。
……と、私はそんな甘い考えでおりました。実際に、競技の準備が始まるまでは……!
「ねぇ、レイン」
「ん?」
「これって、本当に“運動会”の準備?」
「そうだよ?何か変?」
いや寧ろ、“どこか変”じゃなく“全部変”だよ!!
「なんなのこの会場ーっ!!!」
『場ーっ!うーっ!!ぅーっ……!!!』と、辺りに私の叫びが響いていく。現在私達が居る場所は、学園からも、四大国[ミストラル、フェニックス、スプリング、アースランド]の大地とも違うある離島だ。
一応、イノセント学園にはこう言った“行事用”の島が多数あるらしい。
まぁ、それは別に良いよ。王族、貴族がたくさん通う学園なら当然お金持ちだろうし、学園の外にグラウンドなんかがある学校は元の世界にもあったし。
ただ……問題は、今目の前に広がっているこの島の風景だ。
「……あれ、おかしいな。“恋の行く道”って冒険ゲームだったっけ?」
今、私達が立っている場所は煙をもくもくと上げている火山の麓ふもと。地面には草の一本も生えず、ほぼ岩肌か砂利オンリーだ。
所々には崖や谷、岩山があって、そんな中に競争用のトラックが通っている。
――……うん、やっぱりおかしい。ここは何処のダンジョンですか!?こんな島で運動会とか死ぬでしょ普通に!!!
「はーい、四年生の皆さんは集まってくださーい!運動会のプログラム配りますよー!!」
「ーっ!」
目の前に広がるダンジョンを眺めていたら、いつの間にか現れたフェザー皇子が四年生に集合をかけた。私達は今年が運動会初参加の年なので、上級生から説明を受けるらしい。
その説明内容曰く、この学園の運動会は魔法の訓練も担っているのだそうな。こんな危険だらけの場所が会場になっているのも、その危険を“障害物”とした障害物競争があるからだと、フェザー皇子が話してくれた。
その“障害物”の例だけど、例えば火山から流れ出ているマグマの川を渡るだとか、つり橋もない深い谷を越えろとか、岩肌にツタなんかが絡み付いた崖を上りなさいだとか……。
どこのバラエティ番組企画かと突っ込みたくなるような危険がいっぱい(寧ろ危険しかない)運動会だった。
そして、選手達はそんな“障害物”を自らの魔力を使ってクリアしなければならないと。ちなみに、危険な分の対価なのか知らないけど、魔力を使う競技で1位、2位に入った生徒には、成績の方に点が足されるらしい。
だから、こんな異常な競技なのに障害物競争は毎年結構な人気なんだって。
え?お前も魔法苦手なんだから出て上位を目指せば良いって?
とんでもない。人生、安全と平穏が一番ですよ。私は、唯一普通のトラックで走れる二人三脚に参加します。
「あっ、フローラちゃん、ちょっといいかい?」
「はい、なんですか?」
参加競技も決まり、一人隅に避け参加競技を巡って争う子供達を眺めていたら、小さな箱を持ったフェザー皇子が目の前にやって来た。
「これ、二人三脚のパートナー決めのクジなんだ。悪いんだけど、皆に引いてもらってくれる?」
『僕、まだ他に仕事残ってて……。』と、争う子供達を見ながら苦笑するフェザー皇子。その顔には、小学生とは思えないような哀愁があった。
……まとめ役として苦労してるんだぁ、お疲れさまです。
あっ、そうだ!
「わかりました、任してください!」
「ありがとう。じゃあ、僕行くから……」
「あっ、ちょっと待ってください!」
クジの箱を置いて去ろうとしたフェザー皇子が、呼び止められたことに驚いたように振り返る。
私はそんな彼の手に、小さな包みを二つ握らせた。フェザー皇子は手を広げ、中にある金色の包みを確認する。
「……?これは?」
「キャラメルです、疲れたときや運動のお供に良いですよ!」
実は、今日の練習に来る前に、飲み物と一緒にハイネが持たせてくれたのだ。
今は練習時間とは言え放課後に当たる時間だし、これくらい食べても怒られないよね?
「キャラメルか……」
「あ……、もしかしてお嫌いですか?」
しまった、もしや却って困らせちゃった!!?そう思いアワアワする私の前で、フェザー皇子がキャラメルの包みを開く。
「……うん、久しぶりに食べたけど美味しいよ。ありがとう」
「ーっ!」
「じゃあ、色々とよろしくね」
四角いそれを口に入れたフェザー皇子は、そう言って私の頭をポンポンと叩いて去っていった。よかった、喜んで貰えたみたいで。
気持ちが萎えてる時とか、キャンディーひとつとかでも気分変わるもんね。フェザー皇子、下級生のお世話頑張って!
さてと、私も二人三脚のクジやらなきゃ。
―――――――――
「皆さん、男子が青い箱、女子が赤い箱のクジを、一人一本引いてくださいね。クジの数字が同じ方が、皆さんのパートナーになります。」
それぞれ女子の列、男子の列に分かれて並んでもらい、その前にクジ箱を置いて皆に話しかける。
説明を聞くと男子はすぐにクジを引き始めたけど、女子の方がなかなか始まらない。何故かと言うと……
「私から引きます!その箱をお離しなさい!!」
「何を仰るのです!?私の方が先に並んでいましたわ!!」
誰からクジを引くかで、女の子達が揉めているのだ。そんな彼女達の狙いは、二人三脚に参加する男子の一人……。
「フライ様っ、フライ様は何番になられましたか!?」
そう、未来の腹黒王子様、フライ・スプリング殿下だ。……何故よりによってこの競技にしたの!!!
貴方の親友であり幼なじみのライトはやる気の炎を燃えたぎらせながら障害物競争に参加しているのに!そして頼まれると断れないクォーツもライトに引っ張られ、強制的に障害物競争に参加させられてるのに!!
何故!貴方だけここ(二人三脚)に居るのよ、答えなさいフライ・スプリング!!!
「僕は三番だったよ。僕らはもう皆引き終わったけど、女の子達は引かないの?」
フライ皇子の番号を知り更に争いが激化するかと思いきや、当事者からの指摘にあれだけ騒いでいた女の子達が一瞬で静かになった。
ただ、クジの箱だけは気が強い女の子達数人に取り合われたまま。
フライ皇子はそんな彼女達に近づき、片手を差し出して『(その箱を)貸して?』と微笑んだ。その天使(に見える悪魔)の微笑みに当てられた少女達は、ポーッとなりながらクジ箱を彼に渡す。
ん?ちょっとフライ皇子、何故こっちを向くのかしら?
「はい、君から引きなよ」
「えっ……」
やっぱりかーっ!!
まぁ、このままじゃラチあかないし、フライ皇子からしたら『決まらないなら身分高い順にでも引いたら?』って軽い気持ちでの気遣いなのかも知れないけどさ!今、気持ちが高ぶってる女の子達の前でそんなことされたら、その感情の矛先がこっちにくるじゃないの!!
こっちの人生でもまたいじめられるようになったらどうしてくれる!!?
「ほら、後がつかえてるから」
「ーっ!?わ、わかりましたわ。引きますから離してください!」
脳内はフル回転しつつも体はフリーズしていた私に痺れを切らしたのか、フライ皇子が私の手を掴んでクジ箱に入れた。
箱の中には、三角形に折り畳まれた番号の紙が入っている。ふわっと言う感覚がして、一枚の紙が指先に当たる。
不思議に思い顔をあげるけど、夏休み以降なんだか前より怖いフライ皇子が笑顔で早く引けと圧をかけてくる。
……仕方ない、今指先に当たってるこの紙でいいや。
「引けた?」
「えぇ。では……お次の方、どうぞ」
私が引いたクジ片手に箱を女の子達の方に差し出すと、一番前にいた女の子が無言でそれを引ったくった。
わぁい、早速睨まれてるーっ……。うん、泣きそうだ。
フライ皇子、貴方諸悪の根源な癖して『何番だった?』なんて微笑みながら聞いてくるんじゃない!
「ええと、私の番号は……!!?」
「どれどれ……?あぁ、三番かぁ」
『じゃ、僕とペアだね』と微笑むその言葉に、フライ皇子の参加を知り大慌てで二人三脚に移ってきた女の子達の視線が刺さった。
――……当日、雨天中止になってくれませんかね?
~Ep.29 運動会は戦場~
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