27
閉じた目蓋越しにも感じる陽の光。
僕は何かの箱(考えるまでもなく棺だろう)に入れられて、どこかへゆっくりと移動していた。
下に柔らかいクッションを敷いてくれているから体が全然痛くないし、うっかりそのまま眠ってしまいそうなくらいに寝心地が良い。
この分だと宣言通り、見た目も凝った綺麗なものに違いない。
どこへ向かっているのかはわからないけれど、幸いにもまだ蓋はされていないので、時折吹く優しい風が髪を揺らしていく。
葉が擦れる音や鳥の囀りが聞こえる。
小さい動物が地面を駆ける音、枝が大きく揺れる音。森の中は存外賑やかだ。
それとは対照的に、家を出発した時から小人たちはずっと静かだった。
普段ムードメーカーになっているドーピーさんでさえも、朝からほとんど喋っていない。
……まぁ、普通に考えてこんな状況で明るくいろっていう方が難しい。
この
コヨミちゃんのメモも影響してか、所々違う部分があったとは言え、魔女の毒林檎で
だけどここからどう王子と出会うのかは全く思い出せない。
この後ちゃんと現れてくれる、よね?
このままだと本当に土の中に埋められかねないんだけど!
一人内心でハラハラしていると、不意にみんなの歩みが止まった。
もしかしてもう目的地に着いてしまったのかと焦ったけれど、どうやら違うらしい。
「ここで一旦休憩しよう」
ドクさんの声とともに地面に下ろされたと同時、噎せ返る程の花の香りに包まれた。
それで今いる場所の見当が付いた。
前に一度、みんなで来た事がある。
仕事にばかり打ち込んできた彼らは、やっぱりと言うかなんと言うか、ピクニックの経験がなかった。
だからある時僕がサンドウィッチを大量に作って「これからみんなでピクニックに行きませんか」と提案をした。
初め、面白いくらいにきょとんと首を傾げていた彼らも、なんだかんだ付き合ってくれて、遥か遠く地平線まで見渡せる、見晴らしの良い高台でご飯を食べる頃にはすっかり楽しげな表情を浮かべていた。
少々気難しいグランピーさんまでも、片手にサンドウィッチを持ちながら「たまにはこんなゆっくりした日があった方が仕事の能率が上がるかもしれないな」なんて言っていたくらいだ。
その高台へ行く途中に花畑を見付けたのだ。
木が生い茂る森の中、そこだけぽっかりと穴が開いているみたいに、何に遮られる事もなく日の光が一面に降り注いでいた。
赤白黄色どころじゃない。真ん中からはっきりと色が半分に分かれているもの、鳥の頭にそっくりなもの、現実世界にあるものからいかにもファンタジーなものまで、色も形も様々な花がびっしりと咲き誇っていた。
そこで今みたいに休憩をした。
花冠を作るなんて器用な手先も、趣味も特になかったけれど、何か無性に記念に残るものが欲しくなって、いくつか摘んで帰り、二本は押し花に、他は花瓶代わりのコップに入れてしばらく飾って眺めていた。
今いる場所があの時の花畑だとすると、きっと今日の最終目的地はあの高台なんだろう。
あそこからなら、白雪姫が元いたお城と城下町も僅かながら見る事が出来る。
故郷が恋しくなっても少しでも淋しさが紛れるように、何より空に近い明るい場所を選んでくれたに違いない。
どこまでも優しい人たちだ。
「……あの、ここの花を白雪さんに贈らない?」
「いいねぇ、ボクも同じ事考えてた!」
バッシュフルさんの声にドーピーさんがすかさず反応する。他のみんなからも明るい声が返ってきて、
いつものみんなみたいだ。声を聞いているだけの僕まで嬉しくなってくる。
「はいこれプレゼント!」
手に何かが触れる。どうやらいくつかの花を纏めたものを持たせてくれたらしい。
その後もどんどん体の回りに花が寄せられていくのを感じる。
まるで花畑の真ん中に寝転んでいるかのような気持ちになってきた頃、少しの浮遊感があり、また移動が再開されたのがわかった。
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