26

――まるでただ眠っているみたい。

――本当に、今すぐにでも目を開きそうだ。

――ねぇほら、起きて。みんな待ってるよぉ。


ああ、みんなの声が聞こえる。


――……もう起きてくれないの?もうお話出来ないの?

――おい、お前さんの人生はまだまだこれからだろう。こんなところで、こんな終わり方していいわけないだろう!


聞こえてる。ちゃんと聞こえているよ。

心配かけてごめんなさいって言いたい。

今すぐに起きてまた一緒にご飯を食べたい。

またお仕事にだって連れてってほしいし、畑を作って野菜も育てたい。

でもね、体が動かないんだ。全然言う事を聞いてくれない。


あの時白雪ぼくが倒れた後、今までと違う事が起こった。

今までなら、倒れたと同時に意識も失っていたのだけれど、どうやら今回はしっかりと意識を保ったままでいる。ただ、体に全く力が入らないから、目を開ける事はもちろん、声を出すことすら出来ない。塞がれていない耳から入ってくる周りの声や音で、今僕は小人たちの家のベッドに寝かされているらしい事、そしてここに至るまでの経緯は大体わかった。


それによると、魔女が化けたドーピーさんが僕の前に現れた時には既に全員が魔法で眠らされた後だったらしい。

洞窟の中、どこからか音もなく姿を現し、何の抵抗をする暇も与えず一瞬でみんなを眠らせた。

気が付いた時にはもう夜が明けていて、急いで白雪ぼくを探したけれど、既に体が冷たくなっていた後だった、と。


脈はない、息もない。おまけに体は氷のように冷たいとくれば、誰だって死んだと思うだろう。

当の本人ですらそんな状態でどうしてまだ意識があるのか不思議で仕方がないのだから。


でも本当に何故だろう。

考えると少し怖いけど、毒林檎を直接相手に食べさせる事が出来るのだから、殺してしまう事なんか容易かったはずだ。

それなのになんでわざわざ意識だけを残したまま、周りから見れば死んだように見せ掛けるなんて面倒くさい事をしたんだろうか。

それだけが不思議でならない。

考え事をしている間にも小人たちの話は進んでいく。


――だが流石にいつまでもベッドに寝かせておくわけにはいかないだろう。

――……埋葬、するの?

――いずれはしなければならない事だ。

――じゃあさ、うんと綺麗な棺を作ってあげようよ。寝心地が良さそうなやつ。

――それと、見晴らしが良いところを探そう。

――その間に「よく寝たぁ」なんて言って何事もなかったみたいに起きてくれたら面白いんだけどねぇ。

――……本当に、そうだったらどれほど良いだろうな。


もどかしい。ああ、なんてもどかしいんだろう。

みんなが悲しんでいる声をただ聞いている事しか出来ないなんて。

せめて一言でも話せたら。指先が少しでも動かせたなら。まだ僕が生きているって伝えられるかもしれないのに。

このままだと本当に埋められかねない。

そうなったらもう伝える術が何もなくなってしまう……。


と、そこまで考えてふと気付いてしまった。

魔女の思惑に。

背筋をゾワッと悪寒が駆け抜ける。

そうだよ、もしこのまま誰にも生きてる事に気付いてもらえなかったら、暗く冷たい土の中、永遠に閉じ込められる事になる。

死ぬのはもちろん怖いけれど、意識があるまま埋葬されてしまったらなんて、想像するだけでも怖すぎる。とてつもなく嫌だ。


これまでに何度も試して無駄だと頭ではわかってはいる。だけど僕はこれまで以上に強くみんなに呼び掛けた。

僕は生きてるよ!お願い気付いて!

念でも何でもいい、どうか伝わって!


そんな必死の呼び掛けも虚しく、誰にも気付いてもらえないまま、到頭その日がやって来た。

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