21
翌日から、みんなが仕事に行く時は、順番に誰かが残ってくれる事になった。僕としては正直一人じゃないというだけでとても心強い。
魔女の来訪から二週間が経ち、それぞれと一緒に過ごしてみてわかった事がある。
みんな、家でゆっくり過ごす時間にあまり馴染みがないようなのだ。
というのも今までは仕事を中心に生活してきたらしい。別に熱血仕事一筋というわけでもなく、たまたま趣味が実益を兼ねたと言う方が正しい。
それを聞いて、最初に見た部屋の状態に納得もした。
だから食事はお腹が満たされれば良くて、掃除も寝る場所が確保出来る程度に片付いていれば他は気にしない。
鉱山での採掘以外にこれと言った趣味は特になく、急にぽっかりと出来た自由時間というものを大いに持て余している様子が見て取れた。
少々気難しいグランピーさんまでもが、いかにも手持ち無沙汰に部屋の中をうろうろ、立ったり座ったりを繰り返していたのは意外だったけれど、なんだか可愛く思えてしまった。そんな風に言ったらきっと怒るだろうから、本人には秘密だ。
だから僕はみんなにある提案をした。
「家事を覚えてみませんか?」
最初はきょとんとされたものの、手順を教えたらすぐに覚えて、掃除も料理もあっという間に僕より上手くなってしまった。元々器用な人たちらしい。
一度やり始めると何事も凝ってしまう性分なのか、窓は硝子があるのがわからない程に磨き上げられ、壁の汚れも綺麗に落とされ、床は光を反射するまでになった。
一通り家の中が綺麗になると、今度はDIYにも手を伸ばし始めた。ぐらつきのあった椅子、建て付けの悪かったドア、いつぞやスリーピーさんが寝惚けて空けたらしい床の穴も、修繕箇所がわからないほど見事に塞がれたし、お洒落な食器棚まで増えていた。初めてこの家に来た時の状態とは雲泥の差だ。
僕一人じゃ手が回らなかった事も多かったからとても助かるのだけれど、これに関しては曲がりなりにも僕の方が先輩なわけで、こんなにすぐに上達されるとちょっぴり悔しい。
今日の留守番担当のハッピーさんは、にこにこと愛嬌のある笑顔を浮かべながら、早々と昼食の準備に取り掛かっている。明らかに初心者向けではない難しい名前の煮込み料理に挑戦するとかで、朝から気合いが入っていた。
僕はと言うと、作業の邪魔にならない、克つまだみんなが手を出していない場所、つまりは庭の草むしりに勤しんでいた。
端の方には積み重なった雑草が小さな山を作っている。それを見ると達成感が込み上げる。
ある程度のスペースが出来たら土を耕して、いくつか野菜を植えるつもりだ。この辺りは少し殺風景だから、花壇を作ってもいいな……、というところまで考えて、もしかしなくてもこの生活に馴染みつつある事を自覚する。だってなんだか妙に居心地がいいんだ。
一区切り付いて休憩を入れようと立ち上がった時、微かに人の声が聞こえ反射的に身構える。すぐに耳を澄ませたけれど、届くのは風が葉を揺らす音ばかり。
「気のせい、だったのかな……」
見えている景色にも、特に変わった様子はない。
やっぱり思い違いだったのだと中に入ろうとした時、今度はさっきよりもはっきりと、しかも言葉として聞こえた。
“助けて”
一瞬だったけれど、確かにそう聞こえた。
直後にバキバキと枝が派手に折れる音と、動物の鳴き声も聞こえ、嫌な想像が掻き立てられる。
誰かが襲われている?でも僕が行ったところできっと助けにはならない。巻き添えで襲われたら?だからってこのまま見過ごす……?
数秒迷った末、手頃な棒を掴んで走り出した。
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