20
――暖かい。それに、何か柔らかいものに包まれている感覚もする。
ずっとこの心地好い微睡みに浸っていたいのに、なんだかさっきから耳許が騒がしい。
もう少し、あともう少しだけ寝たら起きるから。
そうしたらまた掃除とご飯作りを頑張るから。
鉱山の仕事は難しいかもしれないけど、他の事なら手伝うから。例えばそう、僕でも出来そうな……。
「洗濯物ーー!!」
大切なミッションを思い出して思わず叫ぶ。
急に起き上がったせいか、ふらりと傾いた体が、両脇からしっかりと支えられた。
「起きた!」
「良かったぁ」
「やった!」
「心配したよぉ」
いつの間にかベッドに寝かされている。その周りを囲むように小人たちが並び、口々に喜びや心配の言葉を交わしていた。
「え、なん、仕事は……」
「もうとっくに終わっているよ。今日は順調に進んだから、少し早めに切り上げて帰ってきたら、床に白雪さんが倒れていたんで驚いたよ。一体何があったんだ?」
ドクさんに促されて記憶を辿る。朝にみんなを見送って、一通り掃除を済ませた後は。
「クリーニング屋さん……」
「あぁ、それなら私たちが帰ってきた後に来たよ。彼は元々おっとりしているところがあるんだが、なんでも今日は少し遠くの地域で新規の顧客の依頼があったとかで、いつもより来るのがだいぶ遅かったようだ。それがどうかしたかい」
「違う……」
「え?」
「そうじゃないんです。みなさんが出掛けた後、魔女が、前にお話ししたお妃様が来たんです」
「なんだって」
「顔も声も、知っているものとまるで違いました。全くの別人になっていました。大きな篭を抱えて、洗濯物を届けにきたと言われたので、特に疑う事もせず家の中へ入れてしまったんです」
「そうか。私も事前に彼の特徴を伝えていればよかったね。今着ているその服は?」
「自分はデザインの勉強中で、試作品を持て余しているから良ければ貰ってほしいと渡されました。細かいサイズ調整をしたいと言われ、断りきれずに着てみたんですが、リボンが上手く結べず手伝ってもらう時にそのまま腰を絞められて……」
絞められている時の苦しさを思い出して一瞬息が詰まる。魔女の笑い声が耳の奥に残っている気がした。
「もう大丈夫だ。今は私たちしかいないよ。しかし怖い思いをさせてしまったね。白雪さんは運が良いと言っていいものか迷うところだが、また命が助かったのは幸いだ」
「そうですね……」
「だがこれからはもっと警戒しよう。こうもあっさりとこの場所がばれてしまったという事は、きっとどこへ行っても同じだろう。ならば尚更一人にならない方がいい。これからは、誰かが訪ねてきても、絶対に家の中へ入れてはいけないよ」
「はい」
返事をしながらふと思い出したのは、コヨミちゃんの言葉だった。
――原作の白雪姫では、命を狙われるのは一度だけじゃないからね。
って事は毒林檎以外にもう一回くらい何かあると思ってた方がいいのかも?僕の知ってる白雪姫は、こんなハードなお話じゃなかったんだけどな……。
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