18

「よし、こんなものかな」


大鍋の中の液体を少量掬って味見する。

野菜を適当なサイズに切って煮込んだだけの簡単な料理だ。

不味くはないと思う。……特別美味しいわけでもないけれど。まぁ料理初心者にしては上出来だろう。


昨夜二人に連れられて辿り着いた小人の家は、どこか可愛らしさを感じられる外観とは裏腹に、部屋の中は物の置き場に自由さと奔放さを存分に感じられる……、いや、言葉を選ばず表現するならば、いわゆる“汚部屋”だった。


扉を開けてすぐに見える大きなテーブルには隙間なく皿が積み重ねられ、椅子には服が何枚も重ねて掛けられている。

視線を横にずらすと、テーブル以上に皿の山がいくつも連なっている流しと、開きっぱなしの戸棚が見え、床は足の踏み場がないくらいにいろいろな物が乱雑に散らばっていた。


「こ、れは……」


思わず中に入るのを躊躇する僕の心情を知ってか知らずか、二人は背中をぐいぐい押してくる。


「さぁさお入りなさい。今日は少々散らかっていますが、寝る場所は別にありますのでどうぞそちらでお休みなさい」

「あとでみんなも紹介するねぇ」


明らかに長い月日が掛けられた散らかりようだったけれど、一先ずは言われるがままに移動する。何も踏まないで進む事は早々に諦めた。最低限物を壊さないように注意しながら足を下ろして案内された部屋にもたくさんの箱が積み重なっていたけれど、辛うじて人が寝られるくらいのスペースはあるようだった。


「狭くて申し訳ないが、ここが一番綺麗な部屋なんだ。すぐに予備の寝具を持ってこよう」

「じゃあボクはパンとココアを用意してくるねぇ」

「あ、ありがとうございます」


そんなこんなで流れるように保護され寝床と食べ物をもらって倒れるように眠りに就いて一夜が明けた後、朝食の席で勢揃いした七人の小人たちと対面した。


「おはよう。昨日はよく眠れたかな」

「はい、朝までぐっすりでした」


最初に声を掛けてくれたのは、昨日出会った一人。眼鏡が似合う小人たちのまとめ役でもあるドクさん。どこか学校の先生みたいな雰囲気があって話しやすい人だ。


「ドク、ボクが仕事場に忘れ物をしたから白雪ちゃんに会えたようなものでしょお?だから今回はあんまり怒らないでほしいな」

「それとこれとは別だ。お前は普段から注意力が散漫すぎる。もっと気を引き締めろといつも言っているだろう」


どうやら僕が二人と会えたのは、ドーピーさんが置き忘れた仕事道具を取りに戻ったかららしかった。


「ふん、こうなる事が予想出来たから俺だって何度も何度も念入りにしつこく荷物を全部持ったかと聞いたんだ」


眉間に皺を寄せて怒るのはグランピーさん。


「まぁまぁ、ちゃんと道具は見付かったわけだし、迷子の女の子も助けられたんだからいいじゃない」


穏やかに宥めるのはハッピーさん。


「…………」

「おい、起きろ。食べながら寝るな。せめて食べ終わってから寝ろ。ほら起きろって、へ、へっ、へっくしょい!」


お椀を片手にうつらうつらと船を漕いでいるのはスリーピーさん。それをお世話しているのは本人曰く花粉症のスニージーさん。


「……あ、あの、よろしく」


視線を泳がせてぼそぼそと挨拶してくれたのはバッシュフルさん。なんとも個性豊かな七人である。

白雪の事情を話したら、みんな快く自分たちの家に住む事を許してくれ、着替え代わりにと布で簡単な服まで作ってくれた。


ただお世話になるのは僕の性格上落ち着かなかったので、住ませてもらうお礼として家の片付けと、時間に余裕がある時のご飯係を引き受ける事にした。

数日掛けて雑巾片手に部屋中を拭いて回り、片っ端からお皿を洗っていって、備え付けの棚に物を並べ、慣れない料理に悪戦苦闘しながらも、掃除の最中に偶然発見したレシピ本を参考に野菜スープを作り始めて現在に至る。


初めて来た時には隠れていた床が大部分見えるようになって、テーブルの上も片付いた。

心なしか漂う空気も爽やかに感じられて達成感に包まれる。

洗濯だけは、いわゆるクリーニング屋さんに頼んでいるらしいと聞いて、部屋に対して綺麗に保たれた服装に納得したのだった。


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