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「ではまずこちらの場所ですが、ここはあなたのお父上である国王様がお治めになっておられる国の中枢、姫様も暮らしておられるお城の敷地内です。言わばお庭といったところでしょうか」


森にしてはどことなく整っている感があると思っていたけれど、定期的に手入れされているのならそれも頷ける。

それにしてもこれが庭って、敷地広すぎでしょ!


「そしてあなたは国王様とお妃様の大切な宝でもあらせられる第一王女、白雪様でございます」

「しら、ゆき……?」


僕の聞き間違いじゃなければ、とんでもない名前を呼ばれた気がする。

ここまでの会話から、どこかの国のお姫様だろうと予想はしていたけれど、白雪って、白雪って!思いっきり主人公じゃないか!

思わず足を止めてしまった僕を、アレクさんが心配そうに覗き込む。


「姫様?如何なされましたか」

「……あ、あーっ!アレクさんのおかげで全て思い出しました!ワタシはシラユキ。王女のシラユキ。アリガトウゴザイマス」


なんという大根役者っぷり。凄まじい棒読みになってしまった。

だというのに「それはよかったです」と話を合わせてくれるアレクさんはやっぱり優しい。


アレクさんに先導される形で広い広い庭を歩いて辿り着いたのは大きなお城。

テーマパークにあるような可愛らしい雰囲気のものではなくて、荘厳なオーラを纏った歴史を感じる佇まい。


衛兵をはじめとするお城で働く人たちが、すれ違う度に足を止めてにこやかに挨拶してくれるので、どことなく落ち着かない気持ちを覚えながらも簡単に返していく。


物珍しさからあちこち探検したくなる衝動を押さえつつ、きょろきょろしすぎない程度に観察して歩いていたら、椅子に着くまではあっという間だった。


「それでは本日は、この国の歴史を前回の続きからと、昼食の時間を使ってテーブルマナーの復習をしましょう」


教育係の先生だという女性が、簡単な挨拶の後に授業内容を述べていく。

こんなところに来てまで勉強か……、という気持ちがあったのは最初だけ。歴史の授業は面白かった。

実際に似たようなものなんだろうけれど、先生の説明が上手な事もあって、まるで外国の小説を読んでいるみたいだった。

おかげで大まかな建国の流れと、周辺国との関わり、歴代王族の偉業なんてものまでするりと覚えられてしまった。せっかくここで覚えたものが、現実のぼくには意味のない事と考えると少しだけ虚しい。


順調だった歴史の授業に比べて、手こずったのはテーブルマナーだった。

生まれも育ちも日本人の僕としては、箸で食べるのが当たり前。格式張ったお店に行った事もなく、箸を全く使わずに食事をするという経験がほとんどなかった。


食べる前から「姿勢が悪いですよ」と窘められ、お皿の両脇に複数並んだナイフとフォークもどれから選んでいいのかわからず、序盤から手と目をおろおろさせてばかり。

落としたフォークを拾おうとして止められ、食べた後の置き方も直される。


初めての経験ばかりで、パンにまでナイフを入れようとしていた僕を見兼ねたのか、壁際で見守ってくれていたアレクさんがそっと教えてくれたりもしたけれど、一通り食事が終わる頃にはどっと疲れを感じていた。




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