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「うわっ」


目を開けたと同時、目の前の地面が急激に迫ってきた。……いや、正しく言うならば顔から勢いよく転んだのだ。

咄嗟に出した手のおかげで顔面直撃は免れたが、物語の世界に着いて早々こんな感じでは、我ながら先が思いやられる。


手に付いた土を払いながら立ち上がり、辺りの様子を確認する。

まず目に入ったのは、大きな木だった。

大人が両手を広げても回せないくらいの大きな木。

それも一本じゃない。何本も、ずっと向こうまで木のトンネルが続いている。

どうやらここは森のようだった。

僕が今いる場所は森の入り口なのか、振り返れば辺りには綺麗な花がお日様の光を受けて咲き誇っている。


それにしても。

……視界が低い。手だって小さいし、今履いている靴もなんだかちんまりとしていて可愛らしく思える。体感でしかないけれど、元の僕の身長よりも低い気がする。

子ども……?でも僕の覚えている限り、子どもなんてどこにも出てきていなかったように思う。


そこまで考えたところで、ハッと気付いた。

森、小さい靴、子どものような身長。

もしかして今回は“七人の小人”の誰かになったんじゃないか!

うんうん、それならこんな場所にいるのも、小さい事にも納得がいく。

ならば、まず探すべきは。


「目指せ!小人のお家!」


きっとこの森のどこかに小人たちの暮らす家があるはず!

今まさに駆け出そうとした僕の足を止めたのは、遠くから呼び掛ける声だった。


「──様、姫様ー!どちらにいらっしゃいますかー!」


こちらに向かってくる張りのある男の人の声。誰かを探しているようだ。

さっき姫様って聞こえた気がするけど……。って事はもしかしてこの近くに白雪姫がいる!?

だとしたらこんな序盤で鉢合わせするわけにはいかない。どこかに隠れてやり過ごさないと。

幸いな事に、周りには隠れられそうな場所がたくさんある。小さい体なら尚更だ。

決めて早々だけれど、小人のお家探しは一時中断。僕はすぐ近くにある大きな木の裏に回り込んでしゃがみ、声のする方向を窺った。


声の主はすぐに現れた。予想した通り若い男の人で、動きやすいようにか、シャツにゆったりとしたパンツを合わせただけの軽装で、けれども腰には剣を差している。

シャツの間から覗く首元や腕も鍛えているのが遠目からでもわかるくらいにがっしりとしているが、ムキムキという程ではない。


え……、何者だろう?

悪い人には見えないけれど、こんな人がお話に出てきた記憶もない。得体の知れない人が白雪姫を探す目的となると、真っ先に思い付くのは誘拐だ。

有り得る。十分に有り得る。

だって白雪姫は絶世の美女って話だし、それならきっと小さい頃もそれはそれは可愛かったはずだ。

もう!お姫様のピンチかもしれないって時に、周りの大人は何やってるんだ!

護衛とかいないのかっ!それこそ騎士とか衛兵とか!誰でもいいから守ってくれる人!

いざとなったら僕が囮になってでも白雪姫を逃がしてあげないと。……怖いけど。


自分の言葉に一瞬何か引っ掛かるものがあったが、ぐるぐると考えに夢中になっていた僕はその引っ掛かったものが何なのかも、いつの間にか声の主がすぐ目の前に来ていた事にも気付かなかった。


「……やっと見付けましたよ」


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