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「ところで開、肝心のストーリーは知っているかしら?」


コヨミちゃんに問い掛けられて、空想の世界に飛ばしかけていた意識を戻し、奥の方に仕舞われていた記憶を引っ張り出す。


「本で読んだのはあんまり覚えてないけど、アニメーション映画だったら何となく覚えてるかも。何年も前に一度観ただけだけど、小人たちが仕事場へ行く時に口ずさむ歌が楽しくて印象に残っているかな。

ストーリーは確か、すごく綺麗なお姫様に嫉妬したお妃様が白雪姫を殺そうとして、逃げた先で白雪姫は小人たちと出会う。しばらく小人たちと過ごしていたけれど、ある日老女に化けたお妃様に渡された毒林檎を齧った白雪姫は倒れてしまう。でも偶然通りかかった王子様のキスで目覚めて二人が結ばれてハッピーエンド、って感じだったと思う」

「そうね、大体はそんなところよ。大まかな流れがわかっているなら大丈夫そうね。絶対に成功する保証はないけど、さっき開が言ってた騎士に……、それとも今回は王子様の方がいいかしら?まぁどちらかになれるように一応魔法は掛けてみるわ」


コヨミちゃんはくるくると楽しげに杖を振っている。先程の話を聞いた後では、その言葉に不安がない訳ではないが、僕に出来る事と言えば、取りあえず魔法の成功を祈る他ない。


「あ、ちなみに。白雪姫が命を狙われるのは一度だけじゃないからね」

「それって最初の方にある、お城から逃げて入り込んだ森まで追い掛けてきた狩人の事?」

「あら、覚えてるのね」

「あのシーンはちょっと怖くてドキドキしながら見ていたから印象に残ってたのかも」

「でもそれだと半分正解ってところかしら」

「どういう事?」

「原作は狩人と毒林檎だけじゃないって事よ。それと、開の記憶にあるあらすじは映画版だから、これから行ってもらう原作とは少し結末も違うから気を付けてね」

「え、えっ」

「大丈夫!白雪姫は何度命を狙われても全て生還しているんだし、そもそも主人公しらゆきひめになるとは限らないんだから!」

「それはそうだけど……」


益々不安要素が増えて逃げ腰になる僕とは対照的に、コヨミちゃんが上機嫌で軽やかに杖を振ると、前回同様眩いほどに本が光り、勢いよくページが捲られ、ある場所でピタリと止まる。


「心の準備はいい?」

「う、うん」


本音を言うとまだあまり大丈夫ではなかったが、迷っている時間が多い方が尻込みしてしまいそうだ。もう勢いのまま行ってしまおう。心の裡で覚悟を決め、開いた本の真ん中に渦巻く光に手を翳す。


「さぁ、今度はファンタジーの世界へご案内!行ってらっしゃー……あら?どうしてこれがこんなところに。って、外れない」

「え、何、コヨミちゃんどうしたの?」

「ずーっと昔の事だからすっかり忘れていたんだけど、前に私が書いたメモが挟まっていて、今の魔法と一緒に発動しちゃったみたいなの」

「そのメモってどんな」

「ざっくり言うと白雪姫のパロディみたいなものなんだけど、何せ遊びで書いたものだがら、ちょこちょこと内容が違っているのよ。これまでストーリーに組み込まれちゃったら絶対にややこしくなるわ。もうっ、なんで取れないのよ!」

「大丈夫?僕も手伝うよ」

「あ、待って!今開がこの本に触ったら……」

「え?」


コヨミちゃんの静止の声より一足早く、僕の指先が本に触れる。

それと同時、渦の中心に向かって全身がぐいっと引き込まれた。


「わわっ」

「開!」


あの感覚だ。渦の奥へ、奥へと引っ張られていく感覚。強い力で呼ばれている感覚。


「開!こういうパターンは私も初めてだから、どんな風に作用するかはわからないけど、大まかな流れは変わらないはずだからとにかく頑張って!」


コヨミちゃんの声が遠ざかる。

もちろん言われなくても頑張るつもりだけれど、一体どう頑張れば……。

考えている間に、先程とは比べ物にならないくらい強烈な光に包まれた。

もうすぐ物語の世界へ着くと言う合図だ。

落ちていくような感覚が消え、足が地面を捉える。

今回は誰になったんだろう。

期待と不安で鬩ぎ合う心を、深呼吸をして鎮めながら、僕はゆっくりと目を開けた──。

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