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「前にも言ったけど、私はまだまだ見習い管理者で、魔法も練習中なの。開き直るつもりはないけど、そうじゃなきゃそもそも一度収めた物語を再び集めるなんて事になっていないわけだし。開に手伝いを頼んだのも、自分が物語の世界に入るより、他の誰かを送る方が確実性もあって、ある程度、と言っても私の実力じゃ微々たるものなんだけれどこちらからの調整も出来るからで、物語を選ぶ魔法は基礎中の基礎だから流石に失敗しないけど、ピンポイントで誰かにするっていうのは正直言って特に苦手な魔法なのよ。だから、運が良ければ希望通りになれるし、ダメならさっさと気持ちを切り替えて頑張ってねって事よ」
「……は、はぁ」
「わかった?ここまでで何か質問はある?」
情報量の多さに圧倒されて思考がストップしそうになるのを、数秒掛けて意味を飲み込む。
質問、気になるもの、聞きたい事は……。
「えっと、じゃあ、ちなみになんだけど、成功する確率ってどれくらいなの」
「そうねぇ、最初の頃はほんとに全然上手くいった試しがなかったけど、今だったら十分の一ってとこかしら」
「…………」
思わず無言になってしまった僕をどう思ったのか、コヨミちゃんが再び言葉を募らせる。
「あ、ほらっ、本を読む時って大抵は主人公と同じ目線になって見る事が多いじゃない?だから物語の把握のしやすさとか進めやすさは主人公の方が断然わかりやすいかもだけど、時々は違う目線に立って見てみるのも面白いと思うのよ。この前だって、犬になるなんて機会そうそうないから新鮮だったでしょう?」
「……もしかして」
「なぁに?」
「僕が
「…………」
今度はコヨミちゃんが黙る。
目が泳ぎ、口をもごもごさせたりしているところを見ると、どうやら図星だったらしい。
その様子がなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。
「開、怒ってないの?」
「全然。自分でキャラクターを選べないのはちょっと残念だけど、それ以上に、入ってみるまで誰になるかわからないって方が面白そうだし」
「そんな風に言ってくれてありがとう。やっぱりあなたを選んで正解だったわ。登場人物は博打になっちゃうけど、せめて物語はなるべく希望に沿えるようにするわね。さっき言ってたのは確か、お城と魔法と騎士だったかしら」
「うん。桃太郎は日本のお話だったから、今度は外国の景色やファンタジーな雰囲気も体験してみたいなって」
「動物と話せる桃太郎だって充分ファンタジーだとは思うけど。そうねぇ、それならぴったりのお話があるわ!」
そう言って本を開いたコヨミちゃんが指差したのは。
「『白雪姫』?」
「お城も魔法も王子様も出てくる。ほら完璧!」
「あの、僕が言ったのは王子様じゃなくて騎士なんだけど……」
「お城があるんだから騎士くらいいるでしょう。それに白雪姫は世界で一番美しいって魔法の鏡だって言っているのよ。絶世の美女、見てみたいと思わない?」
「それは、ちょっと見てみたい、かも」
「ね!じゃあ次のお話は『白雪姫』で決定!」
何だかんだで結局今回もコヨミちゃんに押し切られたような気がしなくもないが、白雪姫は知らない話じゃない。
小人たちの誰かになったなら、みんなでわいわい過ごしたり、鉱山で宝石を掘るのも面白そうだ。
お城の騎士なら、常に近くに、というのは難しいだろうけど、白雪姫を間近で見られる機会は充分にあるだろう。
そしてもしも王子様になれたなら。物語では特に描かれる事のなかった普段の王子様のお城での生活を体験出来るかもしれない。
だけど悪いお妃様になっちゃったら……。
うん、今は考えるのをやめよう。
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