21
「今のは何…?それに、これ、何て書いてあるの?」
「いいから、もう一度さっきのページを開いて読んでみて」
僕の質問には答えず、コヨミちゃんは急かすように僕の周りを飛び回る。
『桃太郎』のお話がどうなったかは、つい先程確かめたばかりだ。
それはコヨミちゃんも見ていたはずなのに、どうしてそんなに急かす必要があるんだろう。
首を捻りながらも、言われた通りに開いてみると。
「あ…っ!」
「これも、開がよーく知ってる桃太郎でしょ?」
コヨミちゃんの言葉通り、そこに書かれていたのは、僕がポチとして辿ってきた道程そのものの『桃太郎』だった。
話していた言葉もそのまま、自分でも意識していなかったような細かい描写まで書かれている。
さっきまでそこにいたはずなのに、文章を目で追っているうちに、とても懐かしい気持ちになってきた。
アルバムを眺めているような気持ちで読んでいたけれど、終盤、僕の記憶にない部分があった。
それは、僕たちがおじいさんたちの待つ家へ無事に帰った後の事。
鬼を改心させて村に戻った桃太郎が、畑仕事や村の建て直しを手伝いながら、独学で勉強をし、時には町にある診療所で修業もして、人も動物も助けるお医者さんになったとある。
「これって…」
「オリジナルエピローグってとこかしら?」
いつの間にか、隣から一緒に覗き込んでいたコヨミちゃんが教えてくれる。
「オリジナルエピローグ?」
「物語は、問題を解決したり、困難を乗り越えたところでめでたしめでたしの終わりじゃないって事よ。登場人物たちの時間はその後も続いているの。私たちと同じようにね」
「じゃあこれは、あの桃太郎のその後のお話なの?」
「そういう事」
言われて改めて読んでみる。
いつか畑で交わした、将来動物を助ける仕事がしたいと言っていた桃太郎の言葉が蘇る。
あの時はただ漠然と、動物と話せる桃太郎にならぴったりだと思い、軽く背中を押しただけ。手伝いの合間の何気ないお話。
それをこんな風に実現してしまうなんて。
「……夢を叶えたんだね」
そこまでの過程を間近で見てきたわけではないけれど、なぜだか感慨深い気持ちが込み上げてくる。
「はいはーい、いつまで見入ってるの?」
「わっ」
本に集中していた僕の意識が、すぐ目の前のコヨミちゃんによって引き戻される。
「次は開が頑張る番!これからたくさんの物語を集めてよね」
「また本の世界に入れるの?」
「当たり前でしょ!手伝ってって最初に言わなかったかしら?」
「言われたような、言われなかったような…」
「まぁいいわ、どっちでも。私は開が気に入ったから、これからも協力してくれると助かるんだけど」
「うん、そうだね。結構面白かったし、僕ももっと頑張ってみたい」
「じゃあまずはこの本を綺麗にする事からお願いするわ。ずーーーっと誰にも見付けられなくて、埃被りまくってるんだから」
「…それも頑張るよ」
「じゃあ早速開のお家へ案内よろしく。行きましょ!」
「あ、待ってよ!」
下校時刻を知らせる音楽が鳴る。
奇跡のような出逢いと、夢のようだった一日の終わり。
開きっぱなしだった『桃太郎』のページをそっと指で撫でてからカバンに仕舞い、小さな背中を追い掛けた。
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