20


「あのさ、僕がここに戻ってこられたって事は、物語は一応完成させられたって事だよね」

「ええ、そうね」

「……かなりアレンジ効かせたストーリーになっちゃったけど、大丈夫かな?」


なかなか破茶滅茶にしてしまった自覚があるだけに、不安気に問い掛ける。


「確かにオリジナリティ溢れる桃太郎になった感は否めないわね」

「う"っ」

「でも問題ないわ」

「…ほんと?」

「桃から生まれた男の子が、きび団子でお供にした犬、猿、雉を連れて鬼ヶ島の鬼を退治して、宝を取り戻す。基本的な大筋が合っていれば、細かい部分は本の力で修正されるから」

「そんなものなの?」

「そんなもんよ!」


自信満々に言い放ったコヨミちゃんが、本の目次ページを開いて見せた。

黒く塗り潰されていた箇所の一つに『桃太郎』の文字が光りながら浮かび上がり、やがて光が収まると、そこにはしっかりとタイトルが刻まれていた。


「…すごい」


試しに『桃太郎』のページを開いてみると、そこには僕のよく知るお話が書かれていた。

初めから犬が出てくる事も、猿と雉を仲間にしないままきび団子だけを渡す事も、鬼に農業を教える事もない。

”昔々“のフレーズで始まり語られよく知られている、あの桃太郎だった。


「ね?ちゃんと修正されてるでしょ」

「…うん。僕の知ってる桃太郎だ」


変なアレンジが付く事のない桃太郎を完成させる。当初の目的通りだ。

それなのに、僕がこの目で見て、体験してきたあの場所やみんなの事を考えると、どこか淋しくもあった。


「実はね、それは表の部分なの」

「表の部分?」

「管理者閲覧用の裏のページがあるのよ」


そう言ったコヨミちゃんが開いたままになっていた『桃太郎』のページを撫でると、きちんと整列していた文字が紙から剥がれて宙に浮いた。

かと思えば今度は一ヵ所に集まりぐるぐる回りながら大きな球体になっていく。


「な、何これっ」

「まぁ見てなさい」


楽しげなコヨミちゃんがどこからともなく取り出した杖を球体に向かって振ると、固まっていた文字たちが一斉に弾けて、すごいスピードで本に向かって飛んできた。


「うわわわっ」

「開、ちゃんと本を持ってて!」


腰が引けたまま、次々飛んでくる文字を本のページで受け止める。

瞬く間に一ページが埋まり、すぐに隣のページへ。勝手に捲れる本の風圧で前髪がふわりと浮き上がるのを感じながらも、目が離せない。


時間にしたら恐らく数十秒の出来事。

最後の文字が吸い込まれるように紙に並ぶと、今度は逆方向にページが捲られていき、最後にゆっくりと表紙が閉じたかと思えば、見た事のない文字が綴られていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る