18
翌日。全ての積み荷を舟から荷車に乗せ変えた僕たちは、それぞれの帰路に着いた。
僕と桃太郎はおじいさんとおばあさんが待つ村へ。猿くんや雉くんたちは反対方向の山と村へ。鬼退治の旅の次は、奪われた品々を返して回る旅だ。
もうこんなふうに会う事はないだろう。
きっとみんなそう感じていた。だからこそ、あえてちゃんとした別れの言葉を告げる事はしなかった。
ほんの短い時間一緒に過ごしただけなのに、こんなにも淋しく思えるのは、それだけ濃い時間だったって事なんだろうな。
桃太郎と二人(正確には一人と一匹)で引く荷車には、山盛りの宝石や小判、そして食料が積まれている。
これは僕たちの村だけじゃなく、帰る途中に寄れそうな村や町の分も含まれているから、正直僕たちだけじゃかなり大変だった。
それでもお互い励まし合い、行きに僕たちが一晩お世話になった無人の村や、ちょっと遠回りをして人が住んでいる場所を回った。
もう鬼に怯える必要はないと説明すると、初めは信じてくれなかったけれど、取り戻してきた食べ物や装飾品類を渡せば、驚きながらも最後には信じてくれた。
中には元々住んでいた家から避難してきた人もいたみたいで、ようやく安心して戻れると泣くほど喜んでくれた時にはこちらまで嬉しくなった。
残すは僕たちの家目指して帰るだけとなった頃には、荷車はほとんど空っぽ……になるはずだったんだけど、出発時とそう変わらないくらいの野菜やお米がぎっしりと詰め込まれている。
それと言うのも、行く先々でお礼と称していろいろ貰ったからだ。これではただの物々交換になってしまっている気がしなくもないけれど、厚意を断るのも躊躇われるし、何よりおじいさんとおばあさんが喜ぶだろうという事で、ありがたく頂戴してきた。
朝から平坦ではない山道を歩き通して、途中休憩しながらも遠回りをした分行きよりも長い距離を掛けて、空に藍色が混ざり始める頃、漸く見慣れた茅葺き屋根が見えてきた。
「つ、着いた……」
「なんだかすごく久しぶりな感じがするね」
「ほんとにね。それにもうお腹もペコペコ…」
ぐぅぅ~。自分の言葉に同意するかのように、僕のお腹が大きな音を立てる。
「あははっ。ポチってば面白いなぁ」
ぐぅぅ~。今度は桃太郎のお腹から同じ音が鳴った。
「そういう桃太郎だって同じじゃないか!もう、笑いすぎ!」
「だって今のはすごくタイミングがよかったから」
「偶然!狙ってやった訳じゃないよ!」
わいわい言い合う声が聞こえたんだろう。
家の扉ががらりと開くと、中からおじいさんとおばあさんが走り出てきた。
「桃太郎、ポチ、おかえりなさい…!」
「無事に帰ってきてくれて本当によかった」
駆け寄った勢いのままに、強く抱き締められる。二人から優しい温もりが伝わってきた。
「ただいま」
開け放たれた扉からは、風に乗って炊けたご飯とお味噌汁の匂いが漂ってくる。
あぁ、帰ってきたんだな…。
二人に聞いてほしい事がたくさんあるよ。
僕たちの大冒険のお話を。
たくさんの人に読み継がれてきた昔話を。
囲炉裏を囲んで温かいご飯を食べながら、今までの出来事を桃太郎が二人に話していく。
それを聞きながらいろいろ思い出しているうち、ふと思い出したのは僕の家族の事。
おじいさんもおばあさんも桃太郎も、みんな優しくて好きだ。ここが物語の中だとわかっていても、その気持ちは変わらない。
だけど一段落して、物語をきちんと進めるという使命や緊張感から解放されたら、ぽつぽつと家に帰りたいという気持ちが湧いてきた。
一度考え出したら今まで忘れていたのが嘘みたいに、どんどん頭の中を占領していく。
あぁ、お家に帰りたいな…。
僕も僕の家族の待つ家で、みんなでご飯を食べたり、いっぱいお話がしたい。
ここもいい場所だけど、そろそろ本当の世界に帰りたい──
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