17
「それじゃあ、お元気で!もう悪い事しちゃダメだよ!」
夕焼けの色に辺り一面包まれる中、乗り込んだ舟の上から鬼たちに呼び掛ける。
鬼たちは、手を振って見送ってくれていた。
舟には猿くんたちが手分けして積み込んでくれた荷物も乗っている。それぞれの舟に分担して乗せたはずだけど、結構な量だ。
僕は手を振り返す事は出来ないから、代わりに尻尾を大きく振った。
来る時とは打って変わって穏やかな波に揺られながら、だんだん小さくなっていく鬼ヶ島を不思議な気分で眺める。
「…なんだか変な感じ」
「ボクもだよ。まさか鬼に畑仕事を教える事になるとは思わなかった。まだ少し信じられないよ」
「みんなに提案したのは桃太郎なのに?」
「最初に言い出したのはポチでしょ」
「思い浮かんだのは同じタイミングだった」
「いや、ポチの方が少し早かった」
「いやいや、一緒だよ」
「いやいやいや」
「……ぷっ」
途中で可笑しくなってきて、顔を見合わせながら同時に吹き出した。
「でもこれで一件落着だね」
「それはまだ早いよ。この荷物を元の持ち主に返さなきゃ」
「そうだった…。これ、かなりの量があるよね?全部返すのも大変だぁ」
「ポチさん、大丈夫ですよ。私たちも手伝いますから」
隣の舟に乗っていた雉くんが、僕たちの舟に飛び乗ってくる。
「そうそう。ここまできたら最後まで協力するぜ」
猿くんまでも、こちらへ飛び移ってきた。
不安定な場所なのに、ほとんど衝撃なく着地するのはさすがだ。
「ありがとう。すごく助かるよ」
「弱っちそうなお前らが先陣を切って鬼退治に行った上に、説得までするなんてな。変な奴らだけど、大したもんだ」
「…ねぇ、それって誉めてる?」
「当たり前だろ。強いって認めたからこそこうして付いてきたんだからな」
「…ありがとう」
出発した岸辺へ着いた頃にはもうすっかり夜になっていて、僕と桃太郎は再び雉くんたちの塒の洞窟で一晩過ごすことになった。
いろんな事が盛りだくさんの長い一日だった。
本の上ではたった十数行の文章。
そのわずかな文章の中に、こんなにも広がりや繋がりがあるだなんて想像もしなかった。
自分が犬になるとは思っていなかったし、山道をずっと歩いたのも、電気のない生活も、動物と会話するのも、鬼を間近で見たのももちろん初めてだった。
今日まであった事が、頭の中をぐるぐる巡っている。興奮して眠れないかもしれない。…と思ったんだけど、それ以上に体は疲れていたらしい。
横になってすぐ以降の記憶がない。これはきっと、寝付き時間の最短記録を更新しただろう。
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