16

みんなの協力で無事に鬼を倒した僕たちは、その場にあった料理で簡単なお祝いの宴をした。

大皿に山盛りあった料理はどれも美味しくて、あっという間にみんなのお腹に収まった。


「ふぅ~、お腹いっぱい…」

「こんなに食べたのは久しぶりだね。ポチ、ちょっと腹ごなしも兼ねて探検に行かない?」

「行く!外の様子も見ておきたいし」

「少しは波が落ち着いてるといいね。ポチ、ここへ来る時すごく酔っちゃってたし」

「う"…」


また荒波に揺られる覚悟をしていた僕は、外へ出て一瞬呆気に取られた。来るまでの嵐が嘘のように綺麗に晴れ渡っていたのだ。


「晴れてる…!」

「水平線まで見えるね」

「ほんとにここ、鬼ヶ島だよね」

「もしかしたらこれが本来の海なのかも」

「どういう事?」

「あの嵐はここへ近付けさせないための鬼の妖術か何かだったのかもって事だよ」

「なるほど」


天気の心配もなくなったので、桃太郎と僕はそのまま鬼ヶ島をぐるっと一周してみる事にした。


表側から見た時は、花も咲かないような淋しい島だと思っていたけれど、意外にも植物の生えている土壌があり、小さいながらもちゃんと川が流れている場所もある。

それを見付けた時、ふとある考えが閃いた。


「あのさ、桃太郎。僕、ちょっと思い付いた事があるんだけど」

「ボクもだよ。たぶん、ポチと同じ事」

「家に帰るのが遅くなっちゃうかも」

「いいんじゃない?これまでが順調だったんだから、少しぐらい回り道しても」




「…本気ですか?」


僕たちの話を聞いた雉くんや猿くん、更には鬼たちまでもが、意味がわからないという顔でこちらを見つめている。

あれ、この反応すごく覚えがあるぞ。

…あぁ、鬼退治に行くって言った時も同じ事を言われたんだったな。その時よりもずっと人数が多いけど。


「もちろん本気だよ。それに、これならお互いの為にもなると思うんだ」


僕たちが提案した事。それは、鬼に金棒ならぬ、鬼に農業を教える事だった。

鬼たちは、食べる物がないから村の人や動物たちから食べ物を奪うのであって、それが解決出来れば人里を襲う理由もなくなり、余計な争いは生まれないはず。


昔話の桃太郎はどうだったか知らないが、実際に向き合って、触れて、体験した今は悪者おにを倒してめでたしめでたしというのはどことなくすっきりしなかったのだ。


「やっぱり変…かな?いいアイディアだと思ったんだけど」

「…………」


無言の圧が辛い。

僕が逆の立場だったら、こいつ急に何言い出したんだ?ってきっと思うだろうし、鬼たちからすればついさっきまで戦っていた、言わば敵である僕たちの言う事なんて聞きたくもないだろう。


「…俺たちにも出来るのか?」

「…え?」


諦めかけたその時ぼそりと聞こえた声は、半信半疑で、でもちょっとの期待も混ざっているような声だった。


「この島でも何かを作ったり育てる事が出来るのか?」


さっきと同じ鬼が、僕たちに問い掛ける。


「うんっ、出来るよ!絶対に出来る!今から始めれば冬にも間に合うし、春にはもっといろいろ収穫出来るようになるよ」

「…そうか」


勢い込んで頷いた僕の話を聞いて、固まっていた空気が和らぐ。ことわざの意味とは全然違うけれど、来年の話をしたら鬼が笑った。

一緒に戦ってくれた雉くんたちも、その様子を見て何か感じたものがあったんだろう。最後には僕たちの意見に賛同してくれた。


「よし、そうと決まれば早速取り掛かろう」


桃太郎の掛け声で、それぞれが作業に取り掛かり始める。

まず、鬼たちにはもう今後一切人や動物を襲わないと約束させた。一対一なら敵わなくとも、束になれば脅威になるのは今回の事で身に染みてわかっただろう。


それから、雉くんと猿くんたちには、村の人から奪われた宝石や食糧を、それぞれの舟に乗せられるように手分けして纏めてもらった。


その間に僕と桃太郎は、あの土のある場所へ鬼たちを連れて行き、一通りの作業行程を教える事になった。

道具は、鬼たちが奪ったものの山の中にいくつか埋もれるようにして混ざっていたので、それらを使わせてもらう事にした。


鬼たちは有り余る程の体力で、石や木の根を避けたり、土を耕すという大変な作業も難なくこなしていく。それでもまだ余裕がありそうなのは、さすがとしか言いようがない。


土台ができたところで、作物の植えるタイミングや気を付けるポイント、収穫のコツなどをざっくり伝授し、おばあさんに持たされた袋になぜか入っていた花と野菜の種や、植えられそうなものを丁寧に植えていった。


鬼たちは意外にも熱心に取り組んでくれて、作業が一段落する頃には顔付きがどこかすっきりとして、穏やかなものに変わっていた。

これまでしてきた事が消える訳ではないけれど、これから訪れる明日みらいが、少しでも明るくなる手伝いが出来ていたらいいなと思えた。




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