15
「ぐわぁっ」
次に聞こえた悲鳴は桃太郎のものではなかった。
何が起きたのかわからず立ち止まる僕のすぐ側を、鮮やかな何かが勢いよく横切る。
それも一つ二つではなく、視界を埋め尽くすほどの数だった。
「お怪我はありませんか」
「雉くん!」
声のした方に振り向くと、あの雉くんが立っていた。
「どうしてここに?」
「一度は断られてしまいましたが、鬼退治は私たちの問題でもありますから。あの後すぐに仲間たちに呼び掛けて、こちらに向かったのです」
「ありがとう!こんなにたくさん加勢に来てくれてすごく心強いよ」
「まだまだこんなものではありませんよ」
雉くんがそう言った直後、ごこごごご…と地響きのような音がして、地面からも揺れが伝わってきた。
「何これ…地震!?」
「いえ、これは──」
雉くんが言い掛けた言葉に被さって、威勢の良い声と共に、今度は猿の大群が雪崩れ込んできた。
「雉のやつらに負けてられるか!俺たちもやるぞ!」
猿たちは次々に鬼を取り囲んでいき、あっという間に空間いっぱいになった。
一対一なら鬼の圧勝だろう。けれど今は多勢に無勢と言うべきか。
鬼たちがほとんど攻撃する暇もなく、猿と雉たちにめちゃくちゃにされている。
何だかちょっとだけ、同情してしまいそうになるけど…。いやいや、鬼たちは今まで散々悪い事をしてきたんだから自業自得だろう、きっと。うん、絶対。
「私たちが出発しようとした矢先、あの猿たちが海辺へとやって来たのです。初めは警戒しましたが、お二人の名前を出されたので話を聞いてみると、目的が同じとわかり、舟に乗った猿たちを私たちが先導してきました。何でも“あいつらだけじゃ頼りないから”と言っていましたよ」
「それは…、全くその通りで返す言葉もございません」
「ですが、“あいつらには借りがあるから”とも言っていました。仲間の命を助けられたから、と」
「…そっか」
桃太郎が猿くんに持たせたきび団子。誰かの助けになったんだ。
雉くんも、猿くんも、あの時渡したきび団子が巡りめぐって仲間を連れてきた。
順番も内容もはちゃめちゃだけど、僕たちの『桃太郎』は完成に近付いてきている。
「さて、話してばかりもいられませんね」
「そうだね、僕たちも行こう!」
僕たちが意気込み新たに踏み出した足の先。
ぼろぼろになった鬼たちが、縄でぐるぐる巻きにされていた。もう戦う気力もないのか、すっかり大人しくなっている。
すぐ側では対照的に、雉と猿たちがお互いの健闘を称えながら喜び合っていた。その中心には、年相応にはしゃいで笑う桃太郎の姿がある。
「…僕たちの出る幕ないね?」
「少々出遅れてしまったようです」
雉くんと顔を見合わせて、どちらからともなく笑ってから、今度こそ出遅れないように盛り上がる輪に向かって走り出した。
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