14


「犬と人間?何でこんな所にいるんだ。荷物にでも紛れ込んでたか」


鬼の大きな影がすっぽりと覆い、目をぎょろりと動かして僕たちを見下ろす。

間近で酒臭い息を吹き掛けられて、無意識に後退りしそうになる足を懸命に堪えた。


「紛れ込んだんじゃない。自ら来たんだ。お前たちを倒すために」


すっくと立ち上がった桃太郎は鬼の目を真っ向から見詰めて言った。


「あっはっはっはっ。俺たちを倒す?そんなちっぽけな体でか」


こちらのやり取りに気付いたらしい他の鬼たちも徐々に集まってきて、いつの間にか周りを囲まれていた。


「ちょうど体を動かしたいと思っていたところだ。面白い。倒せると言うのなら倒してみろ」

「望むところだ」


そう言うと腰の刀をすらりと抜いて、桃太郎が走り出す。一拍遅れて僕も続いた。

桃太郎はまるで舞っているかのように、軽やかに刀を振るって次々と鬼たちを薙ぎ倒していく。


「ぐわぁっ」

いてぇ」


鬼たちの悲鳴が轟く中で、桃太郎は息も切らさず尚も動き回っている。

すごい。強い…!

つい見とれそうになった所に鬼のパンチが飛んできて、慌てて伏せて躱した。


「…ちょこまかと逃げやがって」


先程の鬼が、今度は強烈な蹴りを繰り出してくる。これを身体を捻って避けて、相手との距離を取る。


「ポチ、後ろ!」


桃太郎の声に振り向けば、斬られた鬼がこちらに倒れ込んでくるところだった。

それも横に飛んで回避すると、僕と対峙していた鬼を巻き込んでそのまま地面に突っ込んでいった。


「うわぁ…、痛そう…」

「ポチ、平気っ?」

「僕は大丈夫!桃太郎も気を付けて」


その後も桃太郎は縦横無尽に動き回り鬼たちを倒していったのだが、一向に数が減る気配がない。それと言うのも、厄介な事に一度斬られた鬼たちが再び立ち上がって向かってくるからだった。どれだけ強い体をしているんだ…。


僕も隙を突いて思いっ切り噛みついてやったりして僅かながらに加勢しているが、まるで木や石かというくらいに皮膚が硬い上に臭くて、そろそろ顎が辛いし鼻も辛い。


思っていた以上に数が多い上に、復活のおまけ付きの鬼たちに対して僕たちは二人。そのほとんどを桃太郎が一人で絶え間なく戦っているので、こちら側の体力は削られる一方だ。

さすがの桃太郎も息が上がってきている。

何とかしないと。この形勢を逆転出来るような手を考えなきゃ…!


絶対に油断しちゃいけない戦いの最中さなかに少しでも考え事をしたのがいけなかった。


「おらぁっ!」


死角だった場所から大きな岩が僕に向かって飛んでくる。

確かに見えているのに咄嗟に体が動かない。

どこかスローモーションにも感じる岩をぼんやりと眺めていた僕の視界が急に横へぶれた。

何か温かいものに包まれて、地面を横滑りする。


「ポチ!」

「桃太郎…?」

「何で避けないんだ!危ないだろう」

「ごめん…、ありがとう」


今のは気を抜いてしまった僕がいけない。でもね桃太郎、このままじゃ埒が明かないんだよ。

何か打開策を考えなきゃいけないんだよ。

そんな僕の気持ちが伝わったのか、桃太郎が表情をふっと緩めた。


「わかってる。だからポチはここで少し休みながら何か策を考えていて。ボクはその間、一人で戦う」


そう言うと声を掛ける暇もなく鬼たちの元へ飛び出していった。


「桃太郎!」


良い案が浮かばないから今こうなってるんじゃないか!こんな切羽詰まった状況で策も何もないよ!だけど、何か考えなきゃ。何か、何か、何か。


キーン、と澄み渡るような音が聞こえた。

はっとして振り向くと、桃太郎の刀が弧を描いて宙を舞っていた。

その下には丸腰で鬼に囲まれる桃太郎。

鬼たちが一斉に攻撃の姿勢を取って──。


やばいやばいやばい!

考えるより先に足が動いていた。間に合え間に合え間に合え。


「桃太郎ー!」








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