12


──揺れている。目に映る景色全てがぐるぐる回って揺れている。あぁ…、地球は丸いんだなぁ…。

舟の縁に顔を乗せて、僕はぐったりとしていた。


朝、洞窟の部屋で目が覚めた後、桃太郎が持っていた食料と雉くんが用意してくれた果物を食べてから、湧き水があるという場所に案内されて身仕度を整えた。


昨日通ってきた道を逆に辿り、あの狭い割れ目を潜り抜けると、そこには雉の群れがずらりと並んでいた。中にはまだ羽毛がぽわぽわの小さい雛の姿もある。可愛い。

それにしてもこんなにたくさんいたのか…。

あの洞窟は想像していた以上に広いのかもしれない。


その群れの先頭、一歩前の位置に、僕たちを案内してくれた雉くんがいた。

なんと雉くんは群れのリーダーだったらしい。

道端で倒れていたのは、外の様子の見回りの帰りに矢に当たってしまい動けなくなっていたんだとか。


その雉くんは、やっぱり自分も鬼退治に着いて行くと言ってくれたのだけど、まだ怪我が治っていないからと桃太郎がやんわり断ってしまった。せっかくのまともな戦力が…!

更には一晩泊めてくれたお礼にと、持っていた残りのきび団子を全部雉くんたちに渡していた。


そうして僕たちは、雉くんたちに見送られながら、鬼ヶ島へ向けて荒れ狂う海へ舟を漕ぎ出して今に至る。


「ポチ、大丈夫?」

「うぅ~…、船酔い。そう言う桃太郎は平気なの?」

「うん、ボクは平気みたい。舟に乗ったのは初めてだけど、生まれつき酔いにくい体質なのかも」


そこでふと思い出す。そう言えば桃太郎って桃に入ったままどんぶらこと川を流れてきたんだっけ。この荒波でも酔わない理由がわかった気がする…。

僕が内心で納得していると、桃太郎が小さく声を上げた。


「見えてきたよ。鬼ヶ島」


舟が進む先、遠くにごつごつした岩だらけの島があった。その真ん中には、怪物が大きく口を開けたような形の洞窟も見える。

…いよいよだ。ついにここまで来てしまった。

鬼ヶ島は、近付く程におどろおどろしさが増していく。そして、


「…大きい」


僕が想像していたよりも何倍も大きかった。


「まずはあの陰になっている場所に舟を止めて様子を見よう」


桃太郎は器用に舟を漕いで、上陸出来そうな岩場の陰に舟をつけた。

乗ってきた舟は流されていかないようにしっかりと綱を結んで、息を潜めながら僕たちは上陸した。

耳を済ますと、風に乗って遠くからの話し声が聞こえる。宴会でもしていそうな、賑やかな声だ。


「…行こうか」


ここまでずっと平然としている事の多かった桃太郎も、さすがに緊張しているみたいだった。どことなく体が強張っている。


「大丈夫だよ。桃太郎なら、絶対に」


これはただの励ましじゃない。だって『桃太郎』は、悪い鬼を退治してめでたしめでたしのお話だから。


「ありがとう、ポチ」


確信を持った僕の言葉が届いたように、桃太郎にいつもの笑顔が戻った。

物語も佳境。ここで頑張らなくていつ頑張るんだ!絶対に無事で帰って、ハッピーエンドで締め括ってやる!




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