11
鳥の塒と言うから、葉っぱや木を寄せ集めて作った巣を想像していたが、着いた先は壁のように切り立った岩山だった。まさに断崖絶壁。
ほとんど垂直に見える岩壁を見上げていると、前にいたはずの雉くんが急にいなくなっていた。
「あれっ、消えた!?」
「いいえ、ここにおりますよ」
岩の壁から雉くんがひょこりと顔を出す。
「ここは洞窟になっているんです。こちらから入れますからどうぞいらしてください」
言われるままに近付いてみると、背の高い草に隠れるようにしてその入り口はあった。
子ども一人がやっと通れるくらいの大きさの割れ目を潜り抜けた先は、広い吹き抜けのホールのようになっている。岩の隙間から入り込んだ月明かりが、壁面に埋まっている何かの結晶に反射して、思いの外中は明るい。
今宵は満月だった。
「うわぁ…!すごい、秘密基地みたい」
「ボクもこんな景色初めてだ」
急に別世界に来たような気持ちになる。
興奮した僕たちの声が反響して聞こえた。
「群れの仲間にあなたたちの事を伝えて参りますので少しお待ちください」
きょろきょろと辺りを見回していた僕たちにそう声を掛けると、雉くんは奥に続く穴の一つに消えていく。
雉くんが入っていった穴の他にも、いくつか通り抜けられそうな穴があった。この先はどうなっているんだろう…。こんな時じゃなければじっくり探検してみたかった。
しばらく待っていると、先程とは別の穴から雉くんが戻ってきた。
「お待たせしました。部屋の準備が整いましたのでご案内します」
雉くんに続いて穴の一つを潜り抜ける。こちらは入ってきたものとは違って、桃太郎でも余裕で歩けるくらいの幅になっていた。
その途中にも横穴が広がっているようだったが暗くてよく見えない。少しでも見えないものかと目を凝らしていたら、何かが一瞬光った。
「うわっ」
「ポチ、どうしたの?」
「いや…、今何かと目が合った気がして」
「あぁ、それは私の仲間でしょう」
僕の疑問に、雉くんが振り返りながら答えてくれる。
「やっぱり警戒されてる…?」
「…多少は。ですが、あなた方は恩人で、危害を加える事もないと説明してあります。警戒心というよりも、珍しさや好奇心から様子を窺っているのだと思います。人間や犬がここを通るなど、まず有り得ませんので」
そんな話をしているうちに、少し開けた空間に出た。この場所も、どこからか光が入ってくるらしく、ぼんやりと全体を眺める事が出来た。
「今晩はこちらをお使いください。置いてある道具もご自由にどうぞ」
雉くんに言われて見た場所には、
「布団がある!」
人一人が寝そべる事が出来るくらいの布団が用意してあった。他にも、灯り用だろう蝋燭まである。
「これ、どうしたの?」
「いつか何かの役に立つ事もあるかと思いまして、人間が去った後の集落から皆でいろいろと運び込んだのです」
「すごいね…。それじゃあありがたく使わせてもらうよ」
僕と桃太郎は寄り添って布団に入った。
この世界に来てまだ数日だけど、ここの生活に馴染んでいる気がする。今まで知らなかったけど、僕は結構順応能力が高かったらしい。まさかこんな所で自分の新しい一面を知る事になるとは。
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