10
山道をしばらく進んでいると、微かに波の音が聞こえた。木々の間から遠くに海の水平線が見える。
「海だ!」
海にはあまり行った事がないけれど、前に行った時は砂でお城を作ったり、かき氷を食べたり、浮き輪に乗って波に揺られてみたりして、一日中遊んだ。
「あの海の向こうに鬼ヶ島があるのです」
「…………」
楽しかった事を思い出してはしゃいでいた気持ちが一瞬にして萎んでいく。ストーリーの進行的にも避けられないとわかっていても、やっぱりどうしようもなく怖くて、ついつい現実逃避をしてしまうのだ。
「じゃああとは舟を探さないと」
緊張で縮こまる僕とは対照的に、桃太郎は至って普段通りだ。なんとも心強い。
「舟ならありますよ」
「え?」
僕の背中に乗ったままの雉くんが答える。
「海辺に漁師の村があったのです。鬼たちの襲来を受けて避難した人間たちが使っていた舟が、そのまま残されています。それを使うといいでしょう」
「わかった。そうさせてもらおう」
それからまたしばらくして、海のすぐ近くまで歩いてきた頃にはすっかり日が暮れていた。
「海、だ…!」
昨日に引き続き、ほとんど休憩なしの歩き通しだった事もあり、浜辺に倒れ込むようにして座る。あぁ、しばらくは起き上がりたくない…。
目線の先では桃太郎が舟の状態を確かめていた。
「見たところ壊れてる箇所もないし、最近まで丁寧に手入れされていたみたい。これならすぐに使えそうだよ」
「そう、それはよかった…」
桃太郎は寝転がったまま返事をする僕の頭を労うように撫でてから、今度は波の様子を確かめ始めた。
「話には聞いていたけど、想像以上に波が荒いな…。さすがにこの暗いなか行くのは無理か」
「え。まさかとは思うけど、今夜このまま向かうつもりだったの?」
「まぁ、ちょっとは」
「いやいやいやいや」
僕は疲れている事も忘れてかばりと起き上がった。桃太郎って時々すごく油断ならない。
少し離れた場所でそんな僕たちのやり取りを見ていた雉くんが、クスッと小さく笑った。
「雉くん、笑い事じゃないよ。桃太郎ってばいつもこんな調子だから、冗談なのか本気なのか区別がつかないんだ」
「人間も犬もみんな同じと思っていましたが、あなた達は私が今まで見てきたどの人間とも犬とも違うようです」
「それって誉めてくれてる…んだよね?」
「ええ、とても。傷の手当てもしていただき、感謝しています」
「それを言うなら僕たちこそ、いろいろ教えてくれてありがとうだよ」
「実は私たちの
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