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「大丈夫かい?お前さん、一人で迷子にでもなってしまったのかい?」


おばあさんは僕にゆっくりと話し掛けながら、ずっと背中を撫でてくれた。そうされるうちに段々と僕の心も落ち着いてきた。

もしここが本当に花咲か爺さんの物語だとしたら、きっとこの人は優しいおばあさんだろう。


「お母さんとはぐれて行くところがないのならうちにおいで。贅沢はさせてあげられないけど、雨風を凌げる屋根はあるからね」


もう、この物語は動き出してる。

ちゃんと完成させるためには、前に進むしかない。


「わん!」


僕は、よろしくお願いしますの気持ちを込めて抱かれたまま返事をした。


「そうかい。じゃあ名前を決めないとねぇ。おじいさんもきっと喜ぶよ」




おばあさんに抱っこされたまま着いた先は、絵本から出てきたような茅葺き屋根のこぢんまりとしたお家だった。

中にはおじいさんがいて、囲炉裏に掛けた鍋で何かを作っている。美味しそうな匂いに思わず鼻をヒクヒクさせた。


「おかえり。ばあさんや、その子はどうしたんだい」

「ただいま。あなたの方が早かったんですね。この子はさっきそこで見付けたんですよ。どうやら親とはぐれて一人になってしまったみたいでねぇ。可愛いでしょう?放っておく事も出来なくて、うちに連れてきたんですよ」

「ほんに可愛いなぁ。わしらには子どもがいないから、お前みたいな元気なのがいたら明るくなりそうだ」


おじいさんは目を細めながら、ごつごつした手で頭を撫でてくれた。

二人に温かく迎えられて、安心したら急にお腹が空いてきた。

ぐぅ…と小さく鳴った僕のお腹の音に、二人が顔を見合わせて笑う。


「今ちょうどご飯が出来たところだ。お前も一緒に食べよう」


この世界に来て初めてのご飯。

お世辞にも豪華とは言えない質素で素朴なものだったけど、優しい味がした。




やっぱりと言うべきか、僕は“ポチ”と名付けられた。

最初はもつれて転んでばかりだった四足歩行にも慣れてきて、今じゃ普通に走る事も出来る。

おじいさんとおばあさんは毎日僕にいろいろな話を聞かせてくれたり、仕事や家事をする時も一緒に連れていってくれたりして、とても可愛がってくれた。


だけど。ここがあの『花咲か爺さん』の世界だとしたら、僕の記憶と違うところがいくつかある。

掘ったらお宝の出そうな場所がわかる気配がない…、というのは僕の鼻が人間の時と変わらぬ嗅覚だからとして。

何より違うのは、意地悪をしてくるはずの隣の家のおじいさんが全然現れる気配がない事だ。

散歩の時に周りの様子を見てみたけれど、他に家はあっても人が住んでいない。


欲張りおじいさんはどこにいるんだろう。

僕がここに来て数日。どうすればストーリーを進められるのか、全くもってわからない。

何も手掛かりがないまま過ごしていた。

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