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「行っちゃった…。仲間になってほしかったんだけどな」

「鬼退治は危ないからね。無理にはお願い出来ないよ」

「確かにそうだけど!でも、桃太郎と言ったら犬、猿、雉でしょう!?」

「犬、猿、雉って何の事?」


そうだった。ここはあくまで本の中の世界で、その登場人物がこの先に起きる出来事や出会う人などを知るはずがないのだった。


「何でもないっ。それより、そろそろ先に進もう」

「そう?でも…」

「いいからいいから。ほら、鬼のいる場所も見付けないといけないんだから、立ち止まってる暇はないよ」


何か聞きたそうな雰囲気の桃太郎を何とか誤魔化して歩いているうちに、日が傾いて辺りが薄暗くなってきた。

そろそろ今夜眠る場所を見付けたいところだけれど、こんな所に都合よく宿屋がある訳もなく。

もしかしたら人生初の野宿を経験する事になるかもしれない…。そんな考えがよぎった時、隣を歩いていた桃太郎が足を止めた。


「ポチ、あそこに村がある」


桃太郎が指差した先を目で追うと、遠くに屋根の茅葺きがいくつか見えた。


「あ、ほんとだ」

「あそこまで行って、一晩泊めてもらえないか聞いてみよう」


一先ずのゴールが決まれば足取りは軽くなるもので。朝から散々歩いて全身疲れていたはずなのに、ちゃんと屋根の付いた部屋で眠れそうだと思った途端、元気が湧いてきた。




「すみません、どなたかいませんか」


村の入り口に立ち、桃太郎が大きな声で呼び掛ける。けれど、返事どころか人の気配すらない。真っ暗な中で、月明かりにぼんやりと輪郭が浮かび上がる家。ちょっと不気味だ。


「ねぇ、もしかしなくても誰も住んでいないんじゃない?だって夜なのにどの家にも明かりが灯ってないなんて変だよ」

「そうかもしれないね。でもせっかくここまで来たから、どこか部屋を借りて泊まらせてもらおう」


そう言うと桃太郎は一番手前にあった家の引き戸に手を掛けた。

建て付けが悪くなっているのか、横にずらす度にガタガタ鳴っている。


「よいしょ、っと。開いた!」


開いた途端、空気のこもった臭いがした。中は広くも狭くもなく、居間の真ん中に鍋を掛けたままの囲炉裏がある。

蝋燭の灯りを頼りに目を凝らすと、家具や雑貨がそのままになっているのがわかったが、よく見るとどれもうっすらと埃が積もっていて、長い事留守にしている家のようだった。


「勝手に上がってごめんなさい。今夜一晩お借りします」


空気を入れ換え、簡単に掃除を済ませて、布団を敷いた頃にはもう他の事はどうでもよくなるくらいに疲れ切っていて(やったのはほとんど桃太郎だけど)、横になって目を閉じた僕はそのまま吸い込まれるように眠りに就いたのだった。



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