第7話 現実

 傷を負った体で森へ戻ると、モルンやその仲間であろう魔族達がわらわらと寄ってきた。

「ヒューズ、大丈夫なのかっ! 」

 モルンの言葉に、脂汗を流しながらあぁ、とうなずく。

 すると、白い毛のよぼよぼがこちらへ歩いてきた。

 見るにこいつが長老だろう。

「この旅はフアモン族を助けていただき、誠にありがとうございまする」

「俺はなにもしてねーよ、助けたのはリアだ」

「いえいえ、あなたが時間を稼いでくれたおかげでリア殿の空間交換魔法も成功したというもの」

「まぁいい、とりあえずグリモワールを貸してほしいんだが」

「もちろんですとも、しかしまずは傷の手当てが先でしょう、モーリン、おいで」

 姿を現したのはモルンより一回りちいさいもふもふ。

「モーリンはおいらの妹だぞ! 傷の手当ての腕は一流なんだぞ! 」

「……そうか、じゃあ頼む」

 人見知りなのか、声をだすことはなく薬草と思われる葉を患部に巻き、その上から魔法を唱える。

 なるほど、そういう方法もあるのかと思いつつリアの方を見ると、リアは既にグリモワールを長老からもらっているようだった。

「ヒューズ、このグリモワール」

「もしかして」

「そう、探してたやつ」

 ふぅ、と一息つくとともに、達成感のような、疲労感のようなごちゃごちゃな感情が胸を満たす。

 だが、忘れてはいけない。

 賢者の石が国家ベリアルでつくられ、実用化されていることを。

 色々と話したいことがあったので、リアと二人きりにさせてほしい、と伝えると快く承諾してくれた。

 森の中のひらけた場所で、リアと二人きりになった。

「さて、グリモワールも気になるけどまずは」

 と言ったところでリアが話を被せるように言う。

「賢者の石、だよね」

「あぁ、おそらくだけど今回モルンの故郷を襲ったのも賢者の石の生成のためだと思う」

「魔力が必要だったんだね」

「そういうことになるな」

「あのミラっていう男の子、凄く苦しそうだった」

「あの爺さんの口ぶりからするに、賢者の石の魔力を体内に流し込んでも大丈夫な人間を造ってるんだと思う」

「……なるほどね」

「まぁ、神様ってのがいる限り不可能な話だけど」

「でもそれは、真理を少し覗いた私たちだからわかることだよね」

「あぁ、そうだ、だから変えなきゃいけない、この世界を」

「わかってる。、そのために私は命を捨てたんだから」

「……あぁ、なんとしてもやるぞ」

「もちろん」

 目と目を合わせて、俺らは軽くほほ笑んだ。

「さて、グリモワールでも見ますか」

「実は私もう見ちゃったんだよね」

「だろうと思った、でなにが書いてあった」

「とりあえず透明化の術式」

「でも今まで通りくるとそれだけじゃないだろ」

「そう、ここからは神の文字で書かれてたんだけど」

「解読できたか? 」

「うん、なんとなくね」

「なにが書いてあった」

「死者蘇生の方法」

 リアは急に声のトーンを下げた。

 ここに、俺らが探してた旅の目的の一つがあったのだ。

 ついに、見つけた。

「どうすればできる」

「賢者の石、破邪の杖、神の水をそろえるところから始まるんだけど」

「……まじか」

「うん、そうなんだよね」

 賢者の石は、魔族の命とも言える魔力が大量に必要となる。

 破邪の杖は優れた魔術師の命と引き換えに生成することが可能だ。

 問題は神の水。

 これはどうやって手に入れるのかはまだわかっていない。

「しばらくは神の水探しだな」

「そうだね、でも」

「わかってる」

 賢者の石、破邪の杖。

 いずれも魔族の命が必要となるのだ。

 自分たちの目的のために命を奪うこと。

 そんなことは望んでいないのだから、神の水を見つけたところでどうにもならない話だというのはわかっている。

 それでも、それでも。

 どこかに可能性があるんじゃないかと思ってしまうのが嫌なところだ。

「さあ、いこう、モルン達が待ってる」

「うん」

 俺たちはモルンの故郷があった場所へと足を進めた。

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