第5話 賢者の石
一体ずつ確実に仕留めていこう。硬化された腕で鋭い脚部を受け、蹴りで脚部を折る。
そして次の攻撃に備え、また同じことを繰り返すのだ
相手は機会兵なので、動きはすべてプログラミングされているはず。
つまり同じ動きをしてさえいれば相手のどの個体も同じ動きで攻めてくるので、パターンを熟知していればただの作業といってもいいだろう
少してこずったが、周囲にいた四体のターランは動作停止に追い込めた。
さて、見据えるのは少し先の正門。応援が来る前にさっさとやってしまおう
俊敏性があがっているので、普通なら数十分かかるだろう道を一分足らずで移動することができた。
正門の横に構える兵士がこちらに気づき、槍を構える
だが、俺の目的はやつらとの戦闘ではない。
この正門をぶち壊すことだ
俺が使える数少ない攻撃魔法を放つ。
「爆発魔法、展開」
突き出した手のひらを中心に大きな円が出現する。それはホログラムのように宙にまるで投影されているようで、魔術を知らない人からしたら驚きものなんだろうな。
少し上方に向けて放たれた火球は見事正門に命中し、爆発する。
ゴオォォォンと響く轟音と辺りを包む煙。
この音を合図にリアとモルンが煙に身を隠しながら進入する……はずだ。
さて、ここからの俺の仕事は、と考えていると、煙を手で切るようによけて一人の老人が姿を現した。
老人はまっすぐ伸びた杖を片手に持ち、こちらを見つめている
その目は静かで、波ひとつたたない海のような違和感さえ感じさせた。
「さてさて、やんちゃ坊主が一人紛れたみたいだの」
ただの爺さんじゃない、それは煙からでてきた時点で気づいていた。
しかし幸い、リア達には気づいていないようだ。まあ俺も侵入できたかは確認できなかったけれど。
改めて、俺の仕事はこの爺さんや周囲の兵士を引き付けてリア達が地下牢で円滑に救助を進められるよう補助することだ。
静かな違和感、それは老人の放つ落ち着いた殺意、だろうと感じる。
この爺さんをリア達の下へ行かせるわけにはいかない。
といっても、攻撃魔法を得意としない自分が互角かそれ以上に渡り合えるとは思っていない。
あくまで、時間稼ぎをすればいい、勝つことは目的ではないから。
「見たところ武器をお持ちでないようですが」
「生憎、武器は使わない派なんで」
「左様ですか、これは楽しめそうだ」
「楽しむ、ね」
すると煙からもう一人、少年が姿を現す。
白い短髪に貴族のような服装。目元を一本の帯のような布で覆っているのが不気味な雰囲気をだしている。
少年が口をひらいた。
「マルクス翁、私が相手をします」
「ほっほ、では任せてみようかの」
かつ、かつと地面を鳴らして少年が前へでた。
まだ相手の剣が届く範囲ではないが、こちらも身構える。
少年が右手の平を突き出すと、一瞬胸元が服の下から光り、魔法陣が展開された。
「魔法陣だとっ! 」
ありえない、悪魔の契約を結べるのはこの世界に転生した者だけのはず。
いや、つまりはこいつも転生者だというのか。
俺はとっさに防御魔法を展開するが、間に合うかっ……!
「魔術を使えるのは自分たちだけだと思っていましたか、愚かなこと」
少年の手から放たれたのは紅の槍。真っ直ぐに加速しながらこちらへ飛び、防御魔法を貫通させて俺の右肩を貫いた。
「ぐぅっ、っく、なぜ魔術が使えるっ! 」
「これも全て賢者の石のおかげですよ」
その言葉を聞いて、体が凍りつくような錯覚を覚えた。
賢者の石。
魔族の魔臓と呼ばれる、人間で言う心臓に近い部位を集め、そこから魔力を抽出してつくりだす結晶のことだ。
一個の生産に使われる魔力は膨大で、村、へたすれば町一つ分の魔族を必要とする。
そして賢者の石は一度使えば塵となるため、魔術を使う度に一つの石が必要になるのだ。
これで合点がいった。モルンの故郷を襲ったのはおそらく、賢者の石の生産のため。
右肩にできた大きな傷から、ドクドクと血が流れ出る。
だが不思議と痛みを感じない。
今、俺の中にあるのは―
―怒りだ。
「電撃魔法」
上空からの声に我を戻し、見上げるとそこにはリアがいた。
リアの電撃魔法をマルクスといったか、とにかくそのじいさんと少年はなんなく避けたが、おかげで間合いが広がった。
「リア、モルンはどうなった」
「大丈夫、空間交換魔法で外と檻の中を交換してきた」
「ふふっ、無茶するなぁ」
「それはこっちの台詞だよ、危うく死ぬところだったでしょ」
「正直な話、めっちゃ助かった」
「ふふーん、感謝しといてね」
なんていつも通りの話をして平静を装っていると、今度はマルクスが口を開く。
「さて、こちらとしてはあなたがたを逃がしたくはないのですが」
「そっちの都合なんて知るかよ」
「手負いの割に威勢がいい、丁度二体二といったところでお手合わせ願えますかな」
「こっちの目的は既に果たされた、悪いが油を売ってる時間もないもんでな」
「それは残念です、ミラ殿、あれを」
ミラ、そう呼ばれた少年は両手の平を上空へ掲げた。
また賢者の石を使うつもりか。
「要塞魔法、リュデンツライヒ」
詠唱とともに、周囲を囲むようにまるでコロッセオのような舞台が用意される。
なるほど、逃がす気はない、ってことか。
「リア、いけるか」
「大丈夫、ヒューズこそいける? 」
「もちろんだ」
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