第5話 天岩戸隠れ

 私たちはさっそく、気になっていた古事記上巻の天の石屋戸の段を開いてみた。そこには、誓約(約束)をして勝ち誇ったように、悪戯し放題で暴れまくる弟の須佐之男命に、困り果てて岩屋に隠れられる天照大御神の姿があった。

「そういえば、魏志倭人伝にも、卑弥呼には弟がいて、卑弥呼の補佐をしていたと書いてあったわね。」

「よく読んでるなあ。卑弥呼は敵対していた狗奴国との抗争の中で亡くなるが、その抗争の火種を作ったのは須佐之男命で、彼が約束を破って秩序を乱し、好き放題したので、狗奴国が怒ったのかも知れないな。そして、『隠れる』とは、天皇が亡くなることを意味するらしいが、天照大御神が岩屋に隠れられたのは亡くなったことを意味しているんじゃないだろうか。」

 天照大御神が隠れると高天原も葦原中国も真っ暗になり、万の災いが起こるようになる。困った神々は、集まって考えに考えて、岩戸の周りで太陽の出現を乞う儀式や、歌や踊りとにぎやかな笑い声を響かせる。そして、どうしたのかと気になった天照大御神が岩戸を少し開いたところを引っ張り出し、世の中に明るさが戻るのである。

 天照大御神の岩戸隠れで、天上界を意味する高天原と、地上界を意味する葦原中国のいずれも暗くなり、災いが起きるのである。つまり、高天原を統治していた天照大御神が亡くなることで、直接関係のない葦原中国も暗くなり、災いが起きるということは、運命共同体であることがわかる。

魏志倭人伝に置き換えてみると、卑弥呼が亡くなった後、男王を立てても国中が服せず、殺し合うという状況は、災いと言えなくもない。卑弥呼は倭国の王なので、高天原は倭国とすると、地上界を意味する葦原中国とはどこだろうか。そして両国は運命共同体なのである。狗奴国は敵対しているので葦原中国ではない。高天原で悪行を尽くした須佐之男命は、高天原を追放され、地上に下ろされる。降りた所は出雲である。したがって、葦原中国は出雲国ではないだろうか?そして、倭国と出雲国は運命共同体だったのである。


 『古事記の神話』   『魏志倭人伝』

天上界→高天原→暗く  倭国→殺し合う

 姉:天照大御神 ↓  姉:卑弥呼→台与

 隠れる→現れる ↓  死去→受け継ぐ

         ↓運命共同体

地上界→葦原中国→暗く 出雲国?

 弟:須佐之男命    弟:名前は不明


そこへ、天照大御神が岩屋から引っ張り出されると、明るさを取り戻す。引っ張り出されたのは十三歳の台与ということか。だから、伊勢神宮外宮の祭神は、『豊が受け継いだ』という意味の豊受大御神となるのではないか。


「神様が死ぬことにはできないので、一度隠れて現れるという表現になったのかも知れないね。」美知がスマホをいじり ながら相槌を打った。

神話が史実と同じことを物語っているようだ。私は、魏志倭人伝と古事記の神話が解け合っていくのを感じた。

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