12-2

 ――

「ありがとう。きみのお陰で明日先方に見積書を提出できるよ。この時期一日でも早くしないと他所の会社が嗅ぎつけたりした場合、思わぬ方向に向かってしまう可能性があるからな。ところで食べたいもの決めた?」

「いえ、私そんなに食べるほうじゃないんで、なんでも結構です」

「ここの『もみじ』はどう?」

「えッ、ここって居酒屋じゃないですか? 私、お酒飲めないんです」

「ここは居酒屋にはちがいないんだけど、意外に食事メニューも豊富だからいいと思ったんだ。それに、別に居酒屋だって酒を飲まなきゃいかんということはないよ。店のほうはどんな客でも入ってくれたらいいんだからね」

「はあ」

「ああ、あのいちばん奥のテーブルにしよう」

「……」

「工藤くんは、お酒をまったく飲めないの?」

「はい。私はいいですから、課長飲んでください」

「それじゃあ、僕はお言葉に甘えてビールを頼むけどいいかな? けど人が飲むのを凝っと見てられるのもあれだから、なにかソフトドリンクを頼んだらいい」

「でしたら、ウーロン茶を頂きます」

「お疲れさん」

「お疲れさまでした」

「プハーッ。工藤くん好きなもの頼んだらいいからね」

「はい。じゃあ、野菜サラダと海老チャーハンをお願いします」

「えッ、そんなんでいいの? 焼き魚とか唐揚げとか食べたらいいのに」

「そんなに食べれませんから、本当に……」

「少食なんだね。まあ食べれそうならあとから追加したらいいよ。それはそうと、こうして工藤くんと飲むというか食事するというか――去年の忘年会以来だよね」

「そう、です、ね」

「あまり社内のイベントに参加しないみたいだけど……」

「すいません、社交的じゃないので、ああいうのって本当に苦手なんです。下手すると吐き気が伴ったりすることもあるんです」

「そうなんだ。そういえば、工藤くんは1年前にW大を優秀な成績で卒業してうちの会社に入社したんだったよね」

「正確には1年と8ヶ月です。それと成績は全然優秀じゃないです」

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