7-2

「いいよ、僕いつも自分でやってるから。ちょっと待ってて、いまおいしいキリマンジャロ淹れるから」

「ありがと。ねえ、雅史さんは掃除も洗濯も自分でしてるの?」

「どうして? だって独り暮らしだからしょうがないだろ。ひょっとして、僕のこと疑ってる? 誰かと一緒に住んでるんじゃないかと……」

「ううん、そんなんじゃないけど、あまりにも綺麗に片づいているから、大変だなァと思っただけ」

「ちがうよ。きみが来るから必死で掃除したんだ。いつもは足の踏み場もないくらい散らかってる」

「おいしいわ、このコーヒー」

「だろ? 僕はあまりコーヒーが好きじゃないんだけど、キリマンジャロは香りも味も上品だから、時々気が向くとこうしてひとりで楽しんでる」

――

「ねえ、雅史さん、もう5時を回ったけど、夕飯どうする? どこかに食べに行く?」

「いや、このへんはなんにもなくてね、いちばん近いのは歩いて20分のところにある薄汚れた食堂。わざわざ旨くもない店に行って食事するよりも、真由の手料理のほうがいいな」

「いいけど、私正直言ってあまり料理が得意じゃないの」

「なあに冷凍庫に冷凍食品が入っているから、それを加熱するだけでいい」

「それだったらいいけど。本当に料理はだめなんだからね」

「わかった。確か、ギョウザと鶏の唐揚げ、それにベジタブルが入っていたはずだが……やっぱり入ってた。おっと、ハンバーグもある。真由の食べたいものでいいから拵えてくれないか。ご飯は僕が炊くから」

「それくらいだったらできる」

「ご飯が炊けるまでギョウザと唐揚げでビールでも飲もうか」

「だって雅史さんビール飲まないんでしょ?」

「ああ僕は冷酒を飲む。ビールはきみのために買っておいた」

「なにもわざわざそこまでしなくても……じゃあ私ギョウザ焼くからちょっと待っててくれる?」

「いいよ。その間に僕は唐揚げを電子レンジで暖めよう」

「雅史さんはいつも冷凍食品なの?」

「そうでもないけど、ついつい手間がかからないからそれですましてしまうことが多いな。きみはちゃんと拵えてるの?」

「さっきも言ったけど、あまり料理というものが得意じゃないから簡単にできるものが多いわ。例えば、オムライスとか、チャーハンとか、焼ソバとか……。でもこれからは雅史さんのために一生懸命覚えるようにするから、しばらくは我慢してね」

「愉しみにしてるよ。それじゃあ、乾杯しよう」

「カンパーイ」「かんぱい」

「このギョウザ冷凍食品にしてはおいしいわね」

「うん。きみが心を込めて焼いてくれたからだよ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、なんだかビミョウ」

「厭味で言ったんじゃないから、誤解しないで欲しい」

「わかってる」

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