雅史の部屋 7-1

「お邪魔しまーす。ああ、意外と小奇麗にしてるんだ。男の人の部屋って、もっとグチャグチャとしてて、足の踏み場もないのを想像してた。よかったァ」

「よかった?」

「だって、汚い部屋の雅史さんなんて想像つかないも。それにしてもリビング広ーい。それに白いレースとダークグリーンのカーテン。ベージュのソファーにガラステーブル。とてもセンスがいいわ。私もこんな部屋に住んでみたいな」

「ここは1LDKだけど、独り暮らしだから充分なんだ。リビングは12帖」

「サイドテーブルの上に載ってるのって熱帯魚の水槽?」

「そう」

「明るいライトが点いててとっても綺麗だわ」

「でもこれは熱帯魚じゃなくて、川にいるメダカ。正式にはシロメダカっていうんだ。これがオスでこっちに泳いでるのがメスなんだ。よく見てごらん、背びれの形がちょっとちがうだろ。背びれがきれいに整っているのがメスで、切れ込みのあるのがオス。上から見ただけではよくわからないけど、こうやって横から見るとはっきりわかる」

「この中に何匹いるの?」

「20匹くらい。この子たちの泳いでる場所をよく見てごらん、躰の大きいのが下のほうにいて、いちばん小さいのが水面近くを泳いでるだろ。これは彼らが縄張りを持っているからなんだよ」

「うふ」

「なに? どうかした?」

「本当に好きなのね、魚飼うの。だっていつもと目の色が全然ちがうんだもん。なにか妖気が漂っているように見えるわ」

「まさかァ。でもこの子らを見てると、自分が魚になったような気になるんだ。真由はどう? 嫌い?」

「ううん、そんなことない。だって電気が点いてとってもきれい。私もこの子たちと一緒に泳ぎたいくらい」

「僕も時々そう思うことがある。なあ真由、コーヒーでも淹れようか?」

「そうね。私やるから」

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