5-4
「はい、どちらさまでしょう?」
「昨日お邪魔した池神です」
「あ、お待ち下さい。いまドアを開けます……どうぞお入りください」
「ドアは開けたままでなくていいのですか?」
「大丈夫です。でも携帯だけはスタンバイさせて頂きます」
「結構です」
「雨降りで外出しなかったので、生憎ウーロン茶しかありませんが」
「お構いなく。それより早く本題に入りましょうか」
「でも、お茶くらいは出させてください」
「そうですか」
「私あれから一晩考え抜きました」
「ほう、それで?」
「あなたはすでに私の本当の気持がわかっていると思うのですが、私はいまの会社に入社してから1年3ヶ月になります。入社早々はそうでもなかったのですが、3ヶ月ほどするとあからさまなイビリがはじまったのです。女性特有の陰険なイジメです。仕掛けるのは同じ営業課の沖田真由という女性です。歳は同じなのですが向こうは高卒なので、会社では4年先輩になります。
慣れない仕事でミスが重なったことに対して注意されたのが発端となってそれははじまりました。最初気づかなかったのですが、徐々にエスカレートしてきて、仕事上はもちろんのこと、仕事以外のところにまでも及ぶようになったのです」
「ほう、例えば?」
「言い出したらきりがないのですが、わざとデスクを汚して掃除をさせたり、床にコーヒーを零して拭かせたり、何日も口を利いてもらえなかったりすることもしばしばでした。仕事上では、自分の仕事なのに私に押しつけて自分は定時で帰ったり、酷い時は彼女が自分自身ミスしたことをしゃあしゃあとした顔で私のせいにするのです。それも1回や2回じゃないんです」
「なぜ有美さんはいままでその卑劣な行動を黙ってやらせておいたのです?」
「イジメなんてものは小学校の時から大なり小なりありました。他のひとから見たら私はイジメ易く見えるのでしょうか、いつも標的になっていました。小学校でも中学校でも高校でも……いつの時も。大学に入ってようやく開放されたというのが本音です。
私にはそれまでの経験から身につけたイジメの対策として、下手に反抗したり無視したりするとイジメの度合いが増長してくるので、自分を殺して相手の懐に飛び込むことにしたのです。でもそれは随分勇気のいることでした。その度に私は心の中でとめどなく泪を流しました。もちろん相手にはそんなところは絶対に見せなかったですけどね。その反動なのでしょうか、いまでは対人恐怖症になってしまいました」
「なるほど。有美さんはたまに実家に帰ることがありますよね」
「はい」
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