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「それはですね、このところ毎日のようにあなたのお父さんが水神さまをお参りする姿を見受けるのです。そして念仏のように唱える言葉が、あなた、有美さんのことなんです。わたくしが耳にしたところによると、勤め先での人間関係に軋轢を生じているらしいので、なんとか上手くいくようにという願掛けでした。そんなわけでお父さんへの恩返しをするために有美さんのアパートを訪問したというわけです。これでおわかり頂けましたでしょうか? もちろんこのことをお父さんはご存知ありません」

「あなたのおっしゃることは大体理解できました。でも、正直言って、まだ私には頭の中が整理できてません」

「無理もありません。こんなことは、誰でも体験できるというものではないのです。わたくしだって、生まれてこの方一度だってここまでしたことはありません」

「そうなんですか」

「嘘じゃありません。それくらいあなたのお父さんには恩義があるのです。なにせ命を助けてもらったんですから。

時間がないのでさっそく本題に入りたいと思いますが、どうなんでしょう? 実際のところ有美さんはお父さんが心配されているようなことがおありではないのですか?」

「いえそんなことはありません。父は心配性なので、少し大袈裟に考えてるだけです」

「有美さんは芯の強い方ですね。なぜそこまで内に秘めようとするのです? 口にしたことと心の裡が真逆になっています。すべてあなた、有美さんの顔に現れています。先ほどお話しましたように、わたくしはいま人間の姿形に身を窶していますが、水神の化身なのです。ですからあなたがいくら隠そうとしたところで心の中はすっかり見透かされているのですよ」

「――」

「あ、いけない。もう約束の15分が経ちました」

「えッ、まさか……いや本当だわ。|(携帯の時間表示を見ながら)こんなに長く話したのに、まだ15分しか経っていないなんて、信じられない」

「いえ、間ちがいなく15分です。これ以上この部屋にお邪魔すると有美さんに迷惑がかかります。ですから、こうしましょう。明日の日曜日にもう一度ここに来ます。それまでにどうするかよおく考えておいてください」

「でも……」

「とにかく明日もう一度もう少し早い時間にお訪ねします。それでは……」

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