4-2

「どうしたの? お父さんが電話してくるなんて、珍しいじゃん」

「どうだ、元気でやってるか?」

「なんとか生きてるよ」

「なに言ってるんだ。お父さんが電話したのは、この間お母さんに聞いたんだけど、会社辞めたくなることがあるって言ってたらしいじゃないか」

「やだァ、そんなに真剣な話じゃないよ。誰だってあるでしょ、仕事で行き詰った時に落ち込むことが。それをちょっと大袈裟に言っただけのことよ。だから、わざわざ電話してくるほどじゃないのに」

「それならいいんだけど、その話を聞いてから、お父さん心配になって毎日水神さまにお参りしてる」

「水神さまって、あの桜川の川べりにあるあの水神さまのこと?」

「そうだ」

「恩着せがましくいってるけど、それってお父さんの好きな魚釣りに行ったついでじゃないの?」

「まあそうかもしれんが、お参りしていることは事実だ」

「はい、はい」

「なんにしても、もし悩み事があったらお父さんでもお母さんでもいいから相談しなさい。もし会社を辞めてこっちに戻って来たいんだったら、まだおまえひとりぐらい食べさせてやるくらいの甲斐性はあるから」

「そんなんじゃないって」

「うん」

「それより、お父さん、ヘルニアのほうは大丈夫なの?」

「あれ以来あまり無理しないように心がけているから、いまんとこは平気だ。それよりこの前健康診断したら、血糖値が高くて、糖尿病の可能性があるって医者にいわれてしまった」

「まだお酒飲んでるの」

「ああ、量は減らしたが毎晩やってる。だけど、タバコはだめ酒もだめっていわれたら生きてる愉しみがなくなってしまうじゃないか」

「いいじゃない、大好きな魚釣りをやってれば。そのほうがずっと健康的」

「おまえもお母さんと同じこと言ってェ」

「でも、躰だけは気をつけないと、魚釣りもできなくなっちゃうよ、ほんとに」

「おまえに言われなくてもわかってるよ。さっき言ったことだけど、自分ひとりで考え込まないようにな。なにかあったらいつでもいいから電話しなさい」

「はい、はい。お父さんもあまり飲み過ぎないようにね」

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