母からの電話 4-1

「もしもし、お母さんだけど。あんた最近連絡してこないけどどう? 変わりない?」

「うん元気でやってる。心配しなくていいよ。それよりお母さんたちはどうなの? 風邪ひいたりしてない?」

「お正月に有美が帰って行ったあとお父さんが2日ほど寝込んだくらい。それも新型インフルエンザじゃなかったからよかった。東京はどこに行っても人が多そうだから、ウイルスもらわないようにしないとね」

「そう。いまはそうでもないけど、うちの会社でも新型で休んでた人、結構いたよ」

「そうなの? あんたも気をつけてよ」

「わかってるって」

「それならいいけど。梅雨に入って雨の日が多いけど、布団やタオルケットちゃんと陽にあててるの?」

「あんまり……だって会社に行ってるから土曜か日曜しか干すことできないじゃん。そういう時に限って雨が降るんだからどうしようもないの。でもその代わりにエアコンで除湿してる」

「まあなるべく小まめに空気を通すことね。ところで会社っていえば、どう、仕事には慣れた? 上司うえの人に怒られたりしてない? いつもお父さんがそのことを心配してるのよ」

「もう、心配性なんだから。大丈夫、だって会社に入って1年と3ヶ月になるんだから。そりゃあ人間だからミスすることもあるけどね。それよりも人間関係のほうが難しい……特に対女性が。時々真剣に辞めたくなることがあるの」

「そんなこと言わないで、周りのみんなと仲良くやりなさい」

「わかってる。ところで、もうすぐボーナスがもらえるんだけど、お母さんなにか欲しいものある?」

「別に欲しいものなんてない。欲しいものがあったらお父さんに買ってもらうから、無駄遣いしないで貯金しときなさい。有美ももう年頃なんだから少しは貯めておかないとね」

「そうだけど……」

「そう、そう。もうそろそろお米がなくなるでしょ、だから宅配便で送っておいた。それと一緒に野菜とお味噌も入れておいたからね」

「ありがとう。で、最近お父さんどうしてるの? 雨が多いから桜川へ大好きな魚釣りに行けなくてストレスが溜まってるんじゃないの?」

「そんなことないわよ。自分が行こうと思ったら雨なんか関係ないんだから……まったく。まあ他に趣味がないから仕方ないといえば仕方ないんだけど、雨に濡れて風邪でもひいたら嫌だから……それだけが心配よ。もう若くないんだからね。いま横になってテレビで野球放送を観てる。変わろうか?」

「いいよ」

「そう? あんたも躰に気をつけてね。たまには電話しなさい」

「わかった。また電話するから。お父さんにもあまり無理しないようにいっといて。それじゃあね」

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