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「まっさかァ。沙保里そんなふうに見てたの? あああ、やーだ。だってランチもあんたと行くし、彼女が入社して1年になるけど、一度だって彼女と一緒に食べたことないし、お茶したこともないんだからね。私に言わせれば彼女はアシスタントみたいなもの。ただそれだけ。プライベートでなんて考えただけでもぞっとする」
「そういえば彼女って、私たち高卒組とちがって確か有名な私大を出てるんじゃなかったっけ。人事課はなにを基準に彼女の採用を決めたんだろうと考えるわけ。学歴や成績さえよければ誰だっていいっていうの?」
「ひょっとしたら、会社の上層部にコネがあるとかしたりして」
「あるよね。でも世の中にはプラス人間とマイナス人間がいるから、そういう類の人間は上手く利用すればいいかも」
「そうなんだけど、毎日あの仏頂面を見てると食欲さえなくなるわ。だから私としては、1日でも早く会社を辞めて欲しくていろいろと試練を与えてるんだけど、彼女意外にしぶとくて、なかなかギブアップしないの。そんなとこが気に入らないっていうのもあるんだよね」
「幸い私の総務にはあの手の人間はいないけど、真由の気持わかる気がする。つまり、真由は彼女のすべてがお気に召さないってことでしょ?」
「わかるゥ? 彼女の無反応な態度をみるとこっちも意地になっちゃってさ」
「じゃあ真由が彼女への引導の渡し方をお手並み拝見といきましょうか」
「沙保里は他人事だからそういう言い方してるんだろうけど、冗談じゃないんだからね。あの顔を見るのは、ほんとうんざり」
「真由、彼女のことはこれくらいにして、このあとどこか行かない?」
「だったら、スウィーツなんてどう? この間渋谷に出た時偶然においしい店見つけたんだ。食べたのはティラミスロールだったんだけど、これまでのロールケーキの中でいちばんおいしかったかも」
「いいじゃん、いいじゃん。ロールケーキいま流行だもんね。私、スウィーツには目がないから、どこでもついてくわ」
「わかったわ。でもちょっと待ってくれる? その前に私、洗面所に行ってくる」
「いいよ」
――
「沙保里ごめんね、洗面所が混んでてさァ」
「なにむくれた顔してんのよォ」
「だって、ひとりのオバさんが、狭い洗面所でしてもしなくても代わり映えしない化粧を延々とやってんだもん。少しは人のことも考えて欲しいもんだわ。ムカついたから鏡越しに睨みつけてやった」
「まだいた? そのオバさん」
「いたわ」
「私も行きたかったんだけど、だったら我慢する」
「沙保里のその手に持ってるコンパクト可愛いね。どこで見つけた?」
「ああ、これ? これは渋谷のセンター街の化粧品屋さん」
「じゃあいまから行くのも渋谷だから、ついでに覗いてみたいけどいい?」
「いいよ」
「沙保里、これ私の分。一緒に払っといてくれる?」
「はいよ。でもこの店アタリだったよね。今度みんなで来てもいいかも」
「そうね、みんなと来ていろんなメニューを食べてみたいよね。あッ、沙保里、ハンカチ忘れないようにね」
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