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「ところで真由さあ、会社出る時言ってた残業の話なんだけど……」
「ああ、あれ? 私たち営業課ってさあ、決まって退社時間近くになって見積書の作成が飛び込むんだよね。それにそういう時って必ず何件か重なるわけ。それだけならまだいいほうで、同じ物件で幾通りも作らなければならない場合もあるのよ。それもすんなりいけばいいけど、ひとつ変更があったら全部いじらなきゃならなくなるの。だいたいそういう仕事を持って来るのは、園田課長。あの人は自分でパソコンをいじれないから時間に関係なく私たちに頼んでくる。きょうだってそうなんだから」
「ふうん。意外と大変なんだね」
「その点沙保里のいる総務は滅多に残業なんてないからいいよね」
「まあね。真由のいる営業課よりはマシかも。で、きょうの急に舞い込んだ仕事は大丈夫なの?」
「
「ああ、真由の隣りに坐ってるあの内気に見える彼女ね。でもよく帰り間際に引き受けてくれたわね」
「いいの、彼女はどうせ真っ直ぐ家に帰るだけだから、少々遅くなってもどうってことないはず。これまでも何度か残業の仕事頼んだことがある。ああ見えても仕事は結構手早くこなすのよ」
「あんたっていう女は、人に仕事を頼んどいてよくそんなことがいえるわね」
「だって、きょうは沙保里とご飯食べる約束があったから仕方ないじゃん。じゃあ私の仕事が済むまで待っててくれた?」
「それは……」
「でしょ? そんな偽善者ぶらないでよ」
「ごめん。ところで、彼女ってなにが趣味なの? 化粧ッ気もないみたいだし、ファッションにお金かけるといったふうでもないしさ。言っちゃなんだけど、なんか薄気味悪いんだよね。目は人を無視したように細いし、髪はストレートでボブでもなくセミロングでもない。その中途半端さが苛つく。前に私服姿を見たことがあるんだけど、ひと昔前のファッションで、お世辞にもイケてるとは思えない」
「やっぱ沙保里もそう思うんだ。でもすべてに無頓着な人種だから仕事も押しつけやすいってこともあります」
「まあ、確かに」
「ここだけの話よ。正直いうと、私たちと同い年だけどあんまり彼女のこと好ましく思ってないの。ぶっちゃけ生理的に受けつけないっていうのかなァ」
「そういうのって、あるよね。でも私は真由が彼女と隣り同士で、結構仲いいと思ってた。それだからあんたの無理な仕事を引き受けてくれてるんだと……」
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