3、私の世界

 私は最近夢を見ているような気がする。時に自分は少女であったり、母親だったり、おばあちゃんになっていたり。さっきまでは、外を楽しく駆け回っていたはずなのにふと自分の手を見やると歳をとったおばあちゃんのようにシワシワの手なのだ。そして現実に引き戻されるように、私は少女ではないことを思い出す。今でもあの頃の思い出は鮮明で、本当に時間が経っていないような気がするのに。白昼夢でも見ているのかしら。なんて思っても、まだ夢見心地なのだ。



 秋斗さんが私に優しく語りかけてくる。さっきまでなんの話をしていたのか思い出せないわ。少し恥ずかしいとおもいつつ、話を聞いていなかったのがバレないように微笑を浮かべる。秋斗さんも別段気にしていないようで朗らかに笑うばかりだ。秋斗さんは優しい。それはもう心配になるほどに。私がついていてあげないとすぐ人に騙されてしまうのではないかと思うことがしばしばある。私たちは幼い頃から近所に住んでいたこともあってすぐに仲良くなった。わがままな私にいつも優しく応えてくれる彼が好きでいつも彼にくっついていた。そんな風に過ごすうちにお互いに一緒にいるのが当たり前になっていた。プロポーズの時だって「これから先もずっと一緒にいたい」と言われ、改めて彼のいない人生は想像できないなと感じたのだ。その時の私はひどく照れて、笑って恥ずかしさを誤魔化しながら「私もずっと一緒にいたい!嫌って言われても離れないわよ!」なんて強がっていた。内心はもし秋斗さんと離れることになったらと思うと布団に潜り込みたくなるほど怖かった。

 今日は久しぶりにお出かけするので朝早くから目が覚めてしまった。湯呑みを持ち上げた時に指輪がキラッと反射して、もうそろそろプロポーズされて一年が経つんだなぁと思うと自分でも顔が緩むのがわかった。これから先もずっとこの人の隣にいたい。私がこの少し気弱で底なしにやさしい彼を幸せにしてあげたいと思う。きっとこの先何年たっても私は目の前で穏やかに微笑んでいる彼が好きなのだ。飲み込んだお茶は体を内側からポカポカと温めてくれるような感じがした。

  


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あの日出会っていなければ 九重工 @8686

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