第7話



「さて、まあ、もう案内はいいだろう!」


 そのあとエレミヤの研究室兼診察室をさらっと見て、私たちの建物見学は終わった。廊下に並んだ私たちに、エレミヤはまるでさっきまでの憂いを帯びた雰囲気が嘘だったかのような快活な笑顔で振り返った。

「このあとは自由にしていてくれ。僕はこのあと少し他の多重人格者のカウンセリングと診察が入っているから、付き合えないんだ、悪いね。明後日には君たちにぜひ会わせたいお偉方が来るから、待っておいて。あ、明日の午後3時、リアは診察室に来ること。この機会に、新しい事例も今後の研究にぜひ活かしたいからねぇ!」

 はっはっはっ! と足取り軽やかにエレミヤが去っていなくなると、シノは途端に「はあぁぁ……」と大きなため息をついた。

「なに、どうしたの」

「何って……エレミヤの話は長いよ。長すぎるよ」

「そう?」

「そうだよ!」

 シノは小さな子のするようにまた渋い顔で首をかしげる。

「リアちゃんも少しくらい疲れたー、とか、しんどいーとか、言ってもいいんだよ?」

「うん、でも疲れたって、よくわからないから」

「え、疲れて眠くなることとかない?」

「まあそれはあるけど……ただ話を聞いているだけだったら、何も疲れることはないよ」

「そうかなぁ……」

 話を聞くのは苦でもない。だって別に聞いていてもいなくても、相手にはそれを知る由はないのだから。

「とにかくボク疲れた。ここなんか不気味だし。シャワー浴びてくる」

「わかった」

 シノはきっと長いことミランダの屋敷に引きこもっていたのだろう。長い話を聞いて、少し階段を上っただけで疲れてしまったようだ。ふらふらとミランダの元に近づくと、「いい?」と許可を求めるように弱々しく呟いた。

「ああ。行ってこい」

「ん、あの、えっと……」

「なんだ?」

 こちらに背を向けたシノは、小さな子供のように下を向き、「シャワー室、暗くて、その……」などともごもご言っている。それを見て、ミランダは腕組みしたままなんでもないような顔で言う。

「私にシャワー室までついてこいって?」

 こくこく、とシノは顔を真っ赤にして頷く。

「全く、世話が焼ける」

「ごめんなさい……」

「主人が直々に体を洗ってやってもいいんだぞ」

「そ、それは恥ずかしいからやめてください」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る