第3話
「まず言っておくと、君たちは今安全な場所にいる。秘密結社MPDの管理するシェルターだ。ここならあの人殺し結社に襲われることはない」
トーストしたパンとカリカリのベーコン、半熟に火の通ったスクランブルエッグ、そして湯気を立てるコンソメスープの食事を前に、私は頷いた。目に色違いのカラコンを入れていつもの姿に戻ったシノは、すでに隣の席でガツガツと食べ物を頬張っている。いつもこうなのかはわからないが、とにかく、ものを食べている彼はとても幸福そうに見える。
私たちは用意された学校の制服のような衣服に着替えたあと、白衣の男に連れられて、食堂のような場所に移動していた。テーブルに着くとすぐに食事が運ばれてきて、白衣の男は私たちの向かいに座ってまた話を始めた。私はフォークで卵を突いてみた。以前学校で、クラスメイトがちょこちょこと食器の先で食事を弄ぶのを見て、羨ましいな、一回やってみたいなと思っていたのだ。余裕がありげで、いつも必死に食事を貪るように食べる自分より、よほど幸福そうだったからだ。でも実際やってみると、卵が可哀想に思えてくるだけだった。なので、丁寧にすくって一口食べた。甘くて滑らかですごく美味しい。
「美味しいかな? ここの食事は」
「とっても」
それは良かったよ、と白衣の男は笑う。
「こんないい場所があるのなら、どうして初めからここに連れてこなかったの?」
「いい質問だ。それには少し複雑な事情があってね。君が結社に入った時期っていうのは、ちょうど結社のトップが交代する時期でね。要するに世襲制だ。前のボスが年取って引退するって言うんで、後釜に色々と引き継ぎをして、結社の中もバタバタしていた。だから引き継ぎが完了して組織が再び通常運営できるようになるまでの間、君をユウに護衛させていたってわけだ。結社はユウの他にもたくさんのエージェントを雇っているが、その中でも彼は際立って優秀で、信頼に足る実績も十分にあったから。まあ人格に少々難はあったけれど」
「あなたは誰なの?」
「僕かい? 僕はユウと同じく、この組織に雇われた者だ。名前はエレミヤ。エレミヤ・テイラー。シェルターには多くの解離性人格障害者が暮らしていて、回していくには多くの職員が必要だ、わかるよね? 医者に料理人に掃除屋にカウンセラー……そして研究員。ここほどいいサンプルにお目にかかれる場所はない。僕は医師免許も持ってはいるが、本業は脳科学者なんだ」
「脳、科学者……」
「ああ。人格障害に対する、精神的ではなく、肉体的なアプローチを専門としている。本当にここではいいデータが取れる。こんな研究は、普通に大学の研究機関にいたんじゃ絶対にできないよ!」
何がおかしかったのか、エレミヤはどっと笑った。シノを見ると、話など一切聞いていない様子で、鼻歌交じりにパンにバターを塗っていた。
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