二-2
「ふーん。で、蝙蝠先生からこのライトだけ貸してもらった、と。ぱっと見普通の懐中電灯なんだがなぁ」
対面に座ってカレーを食べていたリュウヤが物珍しそうに赤写灯を見回している。昼休みの学生食堂、大勢の生徒で賑わう学食の隅っこでルキトは友に今朝の書斎でのことを話していた。
「とりあえず今夜もう一度橋のところに行って、それの光を当ててみる。赤く光れば犯人はブレシスで決定だ」
「でもよ、だとしても誰がブレシスかまでは特定できないんだろ? それじゃあんまり意味はなくねぇか?」
「ギフトの余熱が犯人の体に残っていれば足跡も赤く光るから、それを辿って行ったりとかすれば……」
「そいつが途中でバスとか電車に乗ってたらどうすんだよ?」
「その時はその時でなんか別の方法でも考えるよ。いいからもう返して」
一向に同意を示さないリュウヤの手から懐中電灯を取り返し、ルキトはふてくされた面持ちでラーメンを啜った。
「そもそもなんでそこまでしてブレシスに会いたいのかねぇ。現場の有様からして、どう考えてもマトモな奴とは思えないぞ」
ルキトはすぐには答えず、もう一度ラーメンを啜り――頭の中で言葉を整理してから口を開いた。
「ブレシスはこの世界のどこにでも存在しているって以前セオは言っていた。けど、俺は未だに自分以外のブレシスと会ったことがない。だから今朝例の橋脚を見たとき、心のどこかで期待感、というか安心感みたいなものを抱いたんだ。やっぱりブレシスは俺一人だけじゃないんだ、って」
カレーを食べながらリュウヤは一応ちゃんとルキトの話を聞いているようだ。
「人は自分と同じ境遇の人間と一度は対話してみたいと思うものだろ? 犯人がブレシスだとしたら、なぜそういう行動を起こしたのか訊いてみたいんだ。行動の良し悪しは別として、そうした理由を知りたいんだ。なぜなら俺はまだ、自分がギフトを使う理由ってものを見つけられてないから」
「すまん、ルキト。俺の予想だと、たぶんそんな話をする前にソッコーぶん殴られると思うぜ」
真面目な顔でふざけるリュウヤを睨み、ルキトは口を尖らせる。
「……やっぱりリュウヤに話さなきゃよかった」
「冗談だってば。まぁ頑張れ。応援してるよ」
ちょうど二人は食事を終え、トレーを持って立ち上がる。先頭を行くルキトの背中にリュウヤがすかさず尋ねてきた。
「で? 何時に集合だ?」
「何が?」
「今夜の調査だよ。もちろん俺も一緒に行くからな」
予想外の発言にルキトは驚いて後ろを振り返った。
「は? いや、連れて行くわけな――……」
しかしすぐに言葉は途絶えた。歩いている最中に後ろを向いてしまったせいで、ルキトは前にいた誰かに派手にぶつかってしまった。
「あっ……!」
ルキトはよろめくだけで済んだが、ぶつかられた方の女子はバランスを崩して床に尻餅をついてしまった。
ルキトは慌ててその少女に手を差し延べる。
「ご、ごめん。大丈夫?」
腰の痛みに顔を引きつらせていた少女は、煮え滾る怒りを剥き出しにしてルキトを睨み上げた。
「どこ見て歩いているのよ……!」
食いしばった歯の隙間から獣のような唸り声を漏らし、少女はルキトの手を思い切り打ち払った。大きな音が鳴り、周囲の生徒たちがこちらを向く。少女はすぐに自力で立ち上がり、ルキトには一瞥もくれずに去っていった。
「悪い悪い! 俺が余計なこと言っちまったせいだ、ごめんな!」
リュウヤが隣に来たが、ルキトは少女の立ち去っていた方向をまだじっと見つめていた。
「あの人、誰?」
「ん? ああ、B組の御戸永憐だ。見てくれ(ルックス)は悪くないが、あの通り跳ねっ返りな性格でね。男子も迂闊に近づけない女だよ」
「ミトエレン……」
「おやおや~? るっきー、まさかあいつに気があるのか? けど一友人としてこれだけは言っておく。それは狼の檻の中に素手を突っ込むようなもんだぜ。やめとけ」
横で勝手に盛り上がっているリュウヤを無視し、ルキトは叩かれた手の平に目を落とす。ヒリヒリと痛むだけでなく、異常に熱い。そして腕全体にも痺れが残っている。
ルキトは何となく――本当に何となく、ただの気まぐれのように、ポケットから赤写灯を取り出して手の平に光を当ててみた。すると、ルキトの色白の手が、まるで蛍光塗料でも塗りたくられたかのように赤々と発光したではないか。
リュウヤが目を丸くして覗き込んでくる。
「お前、これってまさか……!?」
皮肉なことに、リュウヤのお陰で事態が進展してしまった。
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