VOL2

 俺は何気なく窓の外に目を移した。


 勿論片側の車線しか見えなかったが、数台の車が速度を落とし、こちらのスピードに合わせるようにして並走している。

 

 勿論、どこかの刑事ドラマじゃないんだから、ド派手にサイレンを鳴らすような真似はしないが、直ぐに俺は、


(警察だな)

 

 と理解した。


 どうやら犯人の少年もそれに気づいたようだ。彼は銃を片手に運転席に戻ると、


『いいか?サツを近づけるなと言え!こっちは人質が30人はいるんだ!』


 と、声高に運転手に命令した。


それから30分ほど走って、バスは羽田空港のバスターミナルに到着した。


 お巡りってのは後をのたのた着いてきた訳じゃない。


 先回りして空港のロータリー付近に待ち構えていた。


『周りは包囲している。まず君の要求を聞こうじゃないか?』


 拡声器で誰かががなっている。


 恐らく機動隊か捜査一課の特殊捜査班だろう。


 小僧は全員に窓のカーテンを閉めるように命令すると、最前列の一か所だけ窓を開け、メモ用紙を一枚落とした。

 

 運転手に代筆させたのである。


 彼はまず拡声器を一台要求した。


 待つほどの事もなく、一台到着し、窓越しに警察官がそれを渡した。

 

それを使って外に向かい、何やらわめいている。


(いいか、これから東南アジアのK共和国に向かう。勿論人質も一緒だ。直ちに燃料を満載した旅客機を一機と、パイロット二名を用意しろ。1時間だけ待つ。要求が通らない場合は、1時間後から、人質を一名づつ殺害し、最終的にはバスごとふっとばす。いいか、これは脅しじゃないぞ!)


 K共和国といえば、今軍事政権と革命軍が、血みどろの争いを繰り広げている。

まあ、どうせ変な革命熱にでも浮かされたんだろう。

 

 本人は冷静さを装っているつもりなんだろうが、語尾がかすれて声が上ずっている。



(こいつ、実はかなりびびってやがるな)

 

 腹の中で俺はそう思い、またバスの中を見回した。


 最初俺はこいつが立ち上がった時、他にも仲間がいると考えたが、どうやら一人のようだ。

 

 そう考えてみると、こいつが持っている爆弾も、本当でない確率が高い。


 勿論ウソとは言い切れないが・・・・。


すると、その時だ。


 通路を挟んで俺のすぐ隣に座っていた、年のころは60歳と言った感じだろう。 

 銀縁眼鏡に妙になまっちろい顔をして、クリーム色のスーツに派手な水玉模様のネクタイをしめたおっさんが、変な笑みを浮かべながら、


『ねぇ、君?』


 といって、座席から立ち上がった。


『私は中学校の教師をしてたんだけど・・・・何があったの?良かったら話を聴いてあげるから、他の人達を全部開放してくれないかな?』


 そうだ、思い出した。


 近頃良くテレビに顔出しする、


『子供に寄り添う教育』とやらを売りにしている、教育評論家のおっさんだ。


『教師?』


 瞬間、少年の眉が上がった。


『そうだよ。だから・・・・』


 彼がそう言いかけた時だ。


 乾いた銃声が車内に響いた。


 次の瞬間、おっさんは腹を押さえてうずくまっていた。


『なんだ。センコウか』

 少年は乾いた声でそう言った。

 拳銃の筒先から薄い煙が立ち上っている。


 

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