バスジャックの日
冷門 風之助
VOL1
(
俺は思った。
しかし今更後悔してもあとの祭りと言う奴だ。
俺、即ち
お世辞にも楽とは言いかねる依頼を請け負って、どうにか解決し、やっと帰ろうとしていたところだった。
新幹線でも良かったし、ギャラも良かったので、飛行機と言う手もあった。
しかし、何せ懐には愛用の業務用拳銃S&WM1917がある。
幾ら探偵だからって、こいつをぶら下げたままでは飛行機には乗れない。
次の選択肢は新幹線だった。
しかし、こちらは週末ということで、どの車両も満員。
そこで選択したのが、
『高速バス』である。
しかしそれが間違いの元だった。
乗っ取りなんぞに
東京までちょうどあと1時間半と言う時だった。車内はほぼ満席に近かったが、それでも幾分かの余裕があった。
俺は今回の
(しかし乗り物の中でこんな書類を纏めるのはあまり好きじゃないな)何気なく車内を見まわしていた。
男は俺の外、70過ぎの爺さんが二人、後は仕事帰りと思われる40絡みのビジネスマンらしい風体が三人。他に眼鏡をかけ、くすんだ灰色のジャンパーを着た高校生と思しき少年が一人。後は3歳ぐらいの子供を連れた母親が一組、40代くらいの中年女性が八割で、若い女性が二割というところだった。
突然、高校生が席を立った。
トイレにでも行くのかと思ったが、彼はいきなりジャンパーのチャックを
下げ、拳銃を抜いた。
見かけはトカレフか、マカロフだろうが、俺の見たところ、粗製乱造のコピー拳銃と見た。
しかし拳銃には変わりはない。
『静かにしろ!』
甲高い声で叫ぶ。少し上ずっていた。
『このバスは僕・・・・いや、俺によって乗っ取られた!勝手な真似をしてはいけない。これから先は全て僕の指示通りにしてもらう!』
彼はそういうと、運転席のところまで歩いてゆき、運転手に向かって同じことを繰り返した。
『いいか?これから君が向かうのは新宿のバスターミナルなんかじゃない。真っすぐ羽田に行ってもらおう』
『バカなこというんじゃない。』
『これが見えないのか?』
彼は運転手にも拳銃を突き付け、凄んだ。
『いいか、これだけじゃない。荷物室には俺のバッグが入っている。そこには爆弾があるんだ。』
彼は片手をポケットに突っ込むと、そこから小型のリモコン装置のようなものを取り出した。
『バッグの中には爆弾が入っているんだ。このバスぐらい、軽く吹っ飛ばせるくらいのな。近頃はこの位、誰にだって作れるんだ』
彼は客席の方を振り返ると、残忍そうな笑みを浮かべて叫んだ。
『さあ、それじゃまず、運転手さんには、無線で指令センターにこのバスがジャックされたことを伝えるんだ。長距離バスなら、そのくらいの装置は付いてるだろう。それから客席にいる皆さんには、携帯電話やスマートフォンの類を持っている筈だ。それを全部通路に落として貰おう。くれぐれも言っておくが、無駄な抵抗はしないことだ。抵抗なんかすると、どうなるか分かってるだろうな?』
彼は拳銃の銃口を客席に向け、片手には無線機を握りしめて叫んだ。
バスは高速を降り、そのまま都内に入った。
言われた通り、まっすぐ羽田に向かうつもりなんだろう。
とんだ宝くじが当せんしちまったな・・・・。
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