第41話 時間潰しは続く

「……そうか」

「あら、驚いていないのね」

「予感はしていたからな」


 この国にスパイが居るような気はしていた。そうすれば納得がいくことが何個かある。しかし、そこまではっきり言うとは思わなかった。


「そんなにはっきり言うという事は、何か確たる証拠でもあったのか」

「えぇ、そうなの。城壁に入っていた結界だけど、内部から破壊されていた事がわかったわ」

「だろうな。そうでなければ、あの強固な結界が破られる訳がない。外部からの攻撃を全て吸収し、人間もモンスターも城門からでなければ入ることが叶わない。それに、無理やり城門から入ろうとすれば、すぐに兵士が集まり捕らえられる。門も閉められ入る事が不可能だからな。

 それに、あの結界に触れられるのは限られている。という事はスパイの目星はついているという事か」


「それが分からないのよ。結界をいじられた時の記録も、そこを監視していた兵士の記憶もないの。まぁそれでも限られてはいるんだけど、まだ確定していないから、怪しい人物は全て監視されているわ。あたしもその容疑を掛けられているわ。」


 レオーラは魔力が無いため魔法が使えないが、協力者がいれば可能だろう。だが、彼女がスパイである可能性は低いだろう。口に出すつもりはないが、人嫌いの私が信頼に値する知り合いだと思っている。

 いつもはふざけた奴だが、前回のような真剣な時では頼れるギルドマスターとしての顔を持っている。なんだかんだいって、ぺてぃか王国の事も、王の事も大事に考えている。だから、彼女がスパイである確率はかなり低い。もし、相手側に洗脳されているなど、特別な場合を除いてだがな。


「あとは≪緑の魂≫を奪った人物も、知っている人物に限られているけどまだ分かっていないわ。もしかしたら、何かの方法で探られた可能性もあるから、それも確定ではないの。

 あぁもう! 分かっていない事が多くて嫌になっちゃうわ!」

「……とりあえず君は水でも飲んで落ち着いた方がいいぞ」

「お酒なら飲むわ!」

「今飲んでどうするんだ! はぁ、真剣な話が台無しだ。この話はここまでだ」


 防音結界を切って、呆れながら話しかけた。


「えぇ、そうね。


 次は恋の話でもして時間を潰しましょう!」

「誰がするか!」

「いいじゃないの~。ライルちゃんだって恋の一つや二つくらい――」

「……」

「え何、その沈黙。

 も、もしかして、恋したことないの?」

「わ、悪かったな! そうだ! 二十歳はたちにもなって初恋もまださ!

 だが仕方ないだろう! 私に近づいてくる女性はほとんど金目当てで、既成事実を作ろうと強引に襲ってくる連中ばかりだったんだぞ!」


 そのせいか、女性に少し苦手意識がある。別に全員とかではない。英雄である彼の幼馴染のように、私ではない誰かに好意を向けている人物や、私に必要以上迫らない女性なら問題はない。

 それに、恋愛は異性だけではない。同性でも子がつくれる加工術ができてから15年、恋愛観が自由な人達が多くなった。国によっては、同性を認めない所、逆に同性しか認めていない国もあるそうだが、ぺリティカ王国はどちらも認めている国である。だから、別に恋する相手が同性であろうが、異性だろうが構わないとは考えている。


 しかし、人嫌いであまり関わろうとしない私が誰かに恋愛感情を抱く訳がないのだ。これだから、恋愛話は嫌なんだ!


「で、でもあなたを本当に想ってくれる婚約者が居たでしょ」


「あぁ、そうだな。彼女は奇異な事に金ではなく私自身を慕ってくれていた。 

 だが、私にとって彼女は妹のような存在であった。彼女を恋愛感情で見れる自信がない。だから、家を出る時に私から婚約を破談にしたんだ。だから、今は元婚約者だ。


 彼女はそれでも私と結婚したいと言っていたがな」


「イイ娘じゃないっ! でも、ライルちゃんが彼女をオンナとして見れないなら意味がないわね。


 なら、セティちゃんはどうなの?」


「何故そこで彼の名前が出るんだ」

「だって、人と関わろうとしないライルちゃんが、唯一近くに居させている人間じゃない。本当は、彼に気があるんじゃないの~?」

「ある訳ないだろう。それと肘でつつくのをやめてくれ。


 言っておくが、私にとって彼は私が夢見た魔法剣士として考えていない。憧れはあっても、恋愛感情など全く抱いていないからな。彼だって、私を憧れ以上には思っていないだろう」


 私となら結婚出来るといっていたが、それは関係ないことだ。


「まぁ、確かに彼は良い男である事は認めよう。私が人嫌いでなかったら惚れていたかもな」

「ふ~ん、そう。ライルちゃんが今そう思っているならあたしは何も言わないわ。」

「……なんだ、その含みのある言い方は」


 まるでなんでもないように、しかしわざとらしく彼女に言われた。私の言葉に不服だとういうのか?

 私と彼は利用し、利用される関係だ。だから、憧れ以上の想いを抱くつもりはない。そこに恋愛感情は不要なんだ。それに、彼も私なんかに好かれた迷惑だろうに。


「今、卑屈な事考えたでしょ!」

「……考えてない」

「嘘よ! 間があったわ!

 もうっ! ライルちゃんはほっとくと卑屈になるんだから! もっと自分に自信を持った方がいいわよ! あなたは自分が思うより凄いんだからっ」


 そんな事を言われてもな。自分でも優秀な加工術師であるとは理解している。だが、周りは大袈裟にいう。彼女や彼が言うほど私は大した人間ではないというのに。


「分かったから、落ち着いてくれないか」

「絶対分かってないわね」


「どうしたんです、レオーラさん」

「あら、セティちゃん」


 食事会の料理を終えたのか、彼が彼女に話しかけた。料理のいい匂いが部屋に広がり、今まで空いていなかったはずなのに、少し空腹感を覚えた。


「それがね! ライルちゃんが言っても自分の凄さを理解してくれないの!」

「え、どういう事ですか?」

「まぁ、それはライルちゃんの問題だから話せないけど、ライルちゃんの自己評価が一般より少しだけ低いのよね。少しよ、少し」

「そうだったんですね……。なら、俺がライルさんの素晴らしさを毎日ライルさんに語ればいいという訳ですか!」

「どうやったら、そうなる!


 それと、料理ができたから、呼びに来たんだろ」

「あ、はいそうです! お待たせしてすみません!」

「そこは気にしてない。はやく席に着くぞ」

「あら、もう一時間たっていたのね。気付かなかったわ。

 今日の食事会楽しみにしてたのよ」

「そうだったんですね! 存分に食べていってくださいね!」


 彼は笑顔でそう言った。とりあえず、これで話は逸らせたみたいだ。とりあえず、彼の食事は美味しいから、冷めない内にいつもより足を速めて席に着いた。



――何故かその姿を見たレオーラが噴出していたので、睨んだ私は悪くない。

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