第40話 料理ができるまでの時間潰し
明日まで帰れそうにない事に少し憂鬱になる。まぁ、今は色々考えても仕方ない。とりあえず、出来る事なら穏便なら
あ、そうだ。大事な事を忘れていた。
「君に土産があるんだ」
「あらライルちゃんったら、そんな事気にしなくてもいいのよ。あたし達の仲なんだから!」
「そういう訳にはいかないだろう。嫌なら持って帰るから、とりあえず見てくれ」
そう言って収納魔法から麦酒が入った酒樽を五つ取り出す。すると、彼女の頬は紅潮し、瞳を輝かさせ手で口を押える。とても喜んでいるようで安心した。
「まぁまぁ! ライルちゃんがあたしの為に酒を? それもこんなに……。
もしかして、夜のお誘い?」
「酒には付き合わないぞ」
「もうっ! ライルちゃんったら鈍くて頭が固いんだから!
でも、そこが魅力でもあるんだけどね」
「?」
今のもそうだが、レオーラの言っている事は時々良く分からない事がある。セティなら分かるだろうと、彼の方を見るが首をかしげていた。――何故かレオーラの秘書にはすごい目で見られているが、私が何をしたというんだ……。
――――
「じゃあ、俺はキリさんと一緒に食事を作りますんで、ライルさんとレオーラさんはそのソファで待っていてくださいね。一時間以上はかかりますんで、レオーラさんと話して暇をつぶしていてくださいね」
「それ以外に時間を潰す方法は……」
「無いですね」
「そう、か。分かった。」
彼女の家は、通常よりは広く大きいが、普通の家と変わらないフローリング張りであった。とりあえず、派手なヒョウ柄の敷物の上にある灰色がかったシンプルなソファの右端に座る。彼女は、すぐ私の隣に来て抱きつこうとするので魔法の障壁でそれを阻止する。その為、不満そうな顔をしているが、どうでもいいな。
一時間以上かかると言っていた。待っている間、時間を潰すものも無いので≪亡霊≫と≪緑の魂≫について問いかける事にした。実は未だにこの二つの事柄が気になって仕方がなかったんだ。前、彼と話し合ったが、それで得られたことはない。奴等に対する情報が何一つない状況である。もしかしたら、取り返しがつかない事が起こるかもしれない。私は出来れば平和に人と関わらずに生きていたいんだ。煩わしい悩み事は一つでも潰していかなくては。
それに、彼が王都襲撃の時にあった事を彼女に全て伝えていたそうだ。そのため、彼女が≪亡霊≫について知っている。その事で国と何か話し合ったかもしれない。
レオーラは私の問いかけに少し悩んだ素振りを見せた後、ギルドマスターとしての彼女の顔になってそれを了承してくれた。
「ライルちゃんなら大丈夫だと思うけど、出来る事なら誰にも言わないでちょうだいね。本当は、他言無用の情報だから駄目なのよ」
ギルドマスターならなおさら駄目だろう。という言葉は飲み込み、誰にも話さないという思いをこめて頷く。そして、収納から防音結界の加工術の紙を取り出し、魔石で発動する。これで私達の話が漏れる事はなくなった。それを見て、彼女は話し始めた。
「あの事件の後、主要人物で一回会議があったの。≪亡霊≫についてまだ分からない事が多いけど、ライルちゃんが緊急クエストの時に捕まえていた人物が尋問の時、重要な情報を吐くことはなかったけど、一回だけこう叫んだそうよ。
『ぺリティカ王国、いや世界はいずれあの方によって滅ぼされる。そして私たちが新たな世界の住人となるのだ!』
って」
「世界を滅ぼす、か」
まるで、夢物語のようだな。それにあの方とは、≪亡霊≫のリーダーとは別の存在か、同一なのか、それを判断する材料はないが、多分前者の可能性が高いだろうな。リーダーとやらは強者のようだが、人間だ。ただの人間が世界を滅ぼすなんて通常不可能だ。ということは、魔族か神か、それとも――いや、今考えても仕方ないか。
「それと、≪緑の魂≫についてだけど、誰が奪ったかはまだ分かっていないの。とりあえず、事情を知っている者達でライルちゃんが置いた石に魔力を補充して、バルチェリア森林を保っているわ。でも、このままじゃ駄目だから、それについてはよく話し合うつもりよ」
「そうか」
現状では分からない事だらけだな。あの時、≪亡霊≫のメンバーには全員逃げられ捕まえる事はできなかった。その為、彼等に関する手がかりが一つも手に入れる方法がない。彼らの目的である、世界を滅ぼして、自分達が望む世界を創る事としか分からないという事だ。
「最後に一つ、また≪亡霊≫の話に戻るけど、重要な事を話すわ」
真剣な表情を更に険しくして彼女は言った。
「この国に、奴等のスパイがいるわ」
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