第39話 レオーラの家に行こう

 とりあえず、無事に彼の武具も新調できた。ちょうど日も暮れてきたし、小型魔石通信機で行って大丈夫か確認のメールを送る。すぐ


『大丈夫よ! 今、仕事を終えて、二人が来るのを首が長くなりそうな程待ってたくらいだわ!』


という返信がきた。少し大袈裟に見えるか、いつも明るいレオーラらしい。とりあえず、行って大丈夫な事を彼に伝え、レオーラの家へ向かおうとする。

 しかし、よく考えたら私は彼女の家の場所を知らない。彼に聞いてみると彼もそのようだった。その代わり、『金獅子亭』に来て欲しいと伝えられていたそうで、そうする事にした。


 よく考えたら、招待されたのに手ぶらで行くのは失礼だと思い直し、酒屋で手土産を買う。彼は少し驚いたが、奴の好きなモノと言ったらこれしか思いつかなかったから仕方ない。


「ライルさんって酒は飲めるんですか」

「飲めない訳じゃないが、すぐ酔ってしまうから人前では飲まないようにしている。そういう君はどうなんだ」

「俺はいっぱい飲んでも酔わない体質なんです。二日酔いもした事ないですよ。飲み比べでレオーラさんに勝った事もありますし」

「あの酒豪の彼女に勝ったなんてそれはすごいな」


 少し羨ましいような、悔しいような気分になった。が、今はいいだろう。買ったモノ達を収納魔法でしまい、今度こそ『金獅子亭』へ足を進ませた。





――――




「お待ちしておりました、ライル様、セティ様。レオーラ様の代わりにこの不肖キリがご案内いたします」


 いつも通り彼女に突進させられるかと思ったが、今回は彼の秘書であるキリという男が迎えてくれた。というか、秘書というより、執事のようだな。


わたくしはあの方の秘書兼身の回りの世話を行う、いうならば執事のような役割も担っております」

「!」


 顔に出ていたのか、心が読めるのか分からないが、口に出していない言葉に返答された。


「それにしても、彼女の世話は大変じゃないか?」

「いえ。私はレオーラ様に深い恩と憧れを抱いています。あの方の為なら、この身を捧げたって構いません。ですから、今の状況は私にとって幸福この上ない限りでございます」


 真顔だが、多分言っていることに嘘は無いだろう。彼女の人柄の良さから、頼られる事は多いが、彼のようにレオーラを支えてくれる人物は今まで居なかった。人の相談事は聴くが、自分の悩みを打ち明けない彼、いや彼女にとって心の支えとなっているのかもしれないな。


「キリさんって、レオーラさんの事が大好きなんですね!」


「好きとは恐れ多い!


 確かにあの方はとても素晴らしい。レオーラ様の時は女神のような母性を、レオン様の時は荒々しくも心惹かれる神のようなオーラを纏うあの方を信仰にも似たような感情で見ています。

 しかし! 決して、そんな穢れた目であの方を見ている訳ではないのです! 私の一方的な感情なのです!


 ですが、時々私に無防備に身体を曝け出すのだけはやめていただきたい。どうしようもなく、心が動揺してしまい、その胸から瞳が離れられな――」


「わ、分かった、分かったからそれ位でいい。

 君、あまりむやみやたらに思った事を言わない方がいい時もあるんだ。分かったか?(小声)」

「わ、分かりました(小声)」


 なんとか、どこかへ意識が行ってしまった彼女の秘書を落ち着かせる。まともな人間だと思っていたが、違ったようだ。まぁ、レオーラには丁度いいかもしれないな。




「着きました。ここからレオーラ様の家に繋がっております」


 そう言って、連れていかれたのは、ギルドマスターの執務室の奥にある扉だった。


「ここが? もしかして、彼女はこのギルドに住んでいるのか?」

「いや、そんな話は聞いた事ないですね。というか、ずっと飾りと思っていたんですが、使えるんですね」

「扉が飾りって……。いや、無いとは言い切れないが、流石にギルドマスターにある扉が飾りな訳はないと思うが」


 よく見ると、その扉には加工術が施されていた。ん? もしやこの加工術は……。


「ライル様は分かりましたか」

「あぁ。どうやら、この扉に空間を生成する加工術が施されている。その空間が彼女の家なんじゃないか」

「その通りでございます」

「えっ!? ただの模様と思ってました!?」


 扉を飾り、加工術を模様だと思ったり、戦闘以外はからっきしと言っても彼は大丈夫なのか少し心配になる。というか、加工術が好きなのに分からなかったのか。覚えられないと言っていたし、仕方ないか。彼に分かりやすい加工術の本も貸しているし、少し教えるべきかもしれない。


 レオーラの秘書が扉を開けると、そこにはいつもより着飾った彼女が居た。


「いらっしゃあい、ライルちゃんセティちゃん!

 今日は朝まで帰さないわよぉ!」

「そうか。それならば、私は途中で帰るぞ」

「それをあたしが許すとでも?」

「一人だけでは帰させませんよ! 今日はレオーラさんの家で一緒に食べて飲んで楽しみましょうね!」


「もう帰っていいか?」

「「駄目です/よ!」」


 なんともいい笑顔で言われ、私に拒否権が無いのが分かった。強く言われると流される癖を直したい……。今日の食事会はどうなるのか、少し不安だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る