第38話 『小人の大槌』 後編

「あたしが考えた中でセティに似合って、力を引き出せそうなのを持ってきました!」


 そう言って、彼女が持ってきたのは、装飾は少ないがとても心が惹かれる真っすぐな銀の刃の片手剣、彼に似合いそうな冒険者の服だった。赤いマントが、彼の青い髪と対比になっていていい感じだ。服の色は白で、胸当ては灰色、ズボンは茶色のようだ。本当に彼に似合う防具を持ってきたようだ。

 一見、防御力は無いように見えるが、素材は魔力の籠った糸で通常の服よりも丈夫のようだ。これに加工術を合わせれば、今着ている皮の鎧よりも防御力が高くなるだろう。それに加え、魔法攻撃にも強いため、万能な服なのが分かる。これで、魔法使いと対峙しても安心だな。

 片手剣の方も、シンプルだからこそ、加工術が映えるだろう。切れ味も、そこいらに売っている剣と違いかなり良い。大体のモノは斬れるだろう。多分、金属も斬れるかもしれない。やはり、ここの店主が作った武器は素晴らしい。剣も服も加工術の施しがいがありそうだな。


「武器も防具も良いモノだね。でも、俺に似合うかなぁ」


 彼も見ただけで良さが分かったようだ。だが、自分に似合うのか少し自信がないようだ。洒落ていて、君に適していると思うんだがな。絶対言わないが。


「そう思うなら、一回試着させてもらったらどうだ?」

「それもそうですね! マリィ、良いかい?」

「えぇ、えぇ! ぜひ試着して! 着方が分からなかったら手伝うわ!」

「いや、それはちょっと……」


 彼女の手伝いを断り、試着室に入っていく。着るのに戸惑ったのか、5分程時間をかけてから出てきた。やはり、思った通り彼に似合っていた。まるで、物語に出てくる勇者のようで、心が高鳴った。


「えっと、どうかなライルさん、マリィ」

「まぁ、いいんじゃないか」

「似合っているわ、セティ! まるで王子様みたいで、カッコイイ!」


 きゃあと黄色い声を上げ、彼の姿を称えた。王子様、か。彼にはその称号は似合わないような気がするが、今の姿は確かに勇ましい王子様のように見える。それにしては服が質素な気もするが。

 というか、自分の幼馴染の言葉より先に私の反応を喜んでいるようだ。そこまで褒めた訳でもないのに、私の言葉を聞いて、花が開くように喜んでいる。少し過剰な気がするが、いつもの事か。

 それにしても、今日は親方に会わないな。この店には居ないのか、はたまた鍛冶場にいるのか気になる所だ。せめて居るなら挨拶ぐらいはしておきたいが……。


「レディ、少し聞きたいことがあるのだがいいか? 今、親方はどこにいるんだい?」

「えっと、鉱石がなくなったので、トルエン火山に行っていますよ。用があるなら伝えておきましょうか?」

「そうだな。私が来ていたのを伝えてくれればそれでいい。

――と、もう暮れてきたか。そろそろレオーラの家に向かおう」

「あ、そうでした。じゃあ、この剣と服を買ってきますんで少し待っててください」

「あぁ、分かった」


 彼にそう言われ、外の方で待っている事にした。すぐに終わるかと思ったが、思ったより時間がかかって彼はやってきた。


「少し時間がかかったな。支払いに手間取ったのか」

「いえ、ちょっと」


 頭を掻いて照れ臭そうに彼は言った。少し気になり、何度も聴くが、結局答えてくれなかった。まぁ、どうせ幼馴染との会話が盛り上がっただけだろう。私には関係ない。



 ……別に、話してくれなくて拗ねてなどいないからな。

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