第37話 『小人の大槌』 前編

 武器を買うという約束でレオーラの家に行く前に彼がいつも行っている鍛冶屋に行くことになった。


 ぺリティカ王国の職人街にある煉瓦造りの武器屋『小人の大鎚』に連れていかれた。まさか、こことは。偶然とはあるものなんだな。


「この店、私もよく使うぞ」

「え、そうなんですか?」

「この銃達を作ってもらったのがこの店なんだ。時々、ここの武器に加工術の依頼を受ける時もある。まぁ、時々だがな。

 もともと、ここの親方は加工術師を嫌っていて、銃の依頼の時もはじめは断られていた。だけど、実際に加工術を見せたら、私の事だけは気に入って認めてくれたんだ。

 いつもは通信機で修理や補強を注文して、転移装置で武具のやり取りをしているから実際に訪れたのは少ないがな。時々、新しい魔法弾を開発してもらう時に訪れる位だな」

「へぇ、そうだったんですね。いつも直接に行くのが好きなんで知りませんでした。

 でも、新たに武具を買う時は実際に行った方が手に取れていいと思いますよ?」

「私はあまり新調しないんだ」


 このローブも私が買える限りで品質が一番良いローブで、予備も何着かある。加工術とも相性が良いので、買い替える必要がないから、とても便利だ。


「で、どんなモノを買うつもりなんだ? 剣や防具と言っても、多様な種類があるだろう。代金の心配はないだろうが、自分に合ったモノを買わないと意味がないぞ」

「そうですね。武器も防具も軽くて動きやすいのがいいですね。でも、ライルさんに加工術が施してもらうから、どんなモノでもいいような気がします」

「そんな事はないと思うがな」


 と、私達がそんな話をしていると、一人の女性が彼に気付くと近付いてきた。


「! いらっしゃい、セティ! 久しぶりね!」

「あぁ、久しぶりだねマリィ」

「今日は何しに? あ、もしかしてあたしに会いに?」

「違うよ。今日は大切な人と一緒に武具を見に来たんだ」

「えぇっ!?」


 大切な人という説明は駄目なんじゃないか? 見た所、褐色の少し筋肉質で健康的なレディは君に気があるように感じたんだが

……というか、穴が開きそうな程見られているが、これは絶対勘違いしているよな。


「君、誤解を招く言い方は無いだろう。

 すまない、レディ。私達は、君が危惧するような関係じゃない。ただのパーティーの仲間だ。そして、私は男だから、安心してくれ」

「え、男っ!? それにしてはあたしより細い……」

「それは言わないでくれないかっ!」


 彼女の背が私と同じ位だからそう感じるんだ。言っておくが、私の身長は男性の平均的な身長でしかない。彼女の背が高いのであって、決して私の背が低いとかそういうのではないので、そこだけは覚えていてくれ。


「? よく分からないけど、紹介するね。彼はあの伝説の神の加工術師って呼ばれるライルさん。俺の憧れの人で、一番大事な人だよ」


 誤解を解いた後にそんな言い方は無いんじゃないか? さっきのような顔でまた見られているんだが。


「で、こっちはこの『小人の大槌』の店員であるマリーナです。仲のいい人は皆マリィって呼んでいるんですよ。幼いころからの付き合いで、妹分のようなものです」


 君、鈍いにも程があると思うぞ。妹分と紹介されて、彼女は落ち込んでいるが、それにも気づいていないようだ。このままでは、彼が女性に後ろから刺されないか少し心配なんだが。――いや、場合によっては私が刺されるかもしれない。背後には気を付けておこう。


「って、あのライルさんっ!? あの人嫌いで有名な人がセティとパーティーを!?」

「そうなんだ! 最初は専属の加工術師になってほしいって毎日会いに行ってたんだ。でも、何回も断れて……。それでも、あきらめずに会いに行っていたら、彼の魔法剣士として一緒にいられるようになったんだ!」

「良かったじゃない、セティ! ずっとライルさんに会う事を夢に見てたものね! それが一緒のパーティーだなんて……大丈夫? 幸せ過ぎて死んでたりしてない?」

「大丈夫! 死にかけたけど、生きてるよ!」


 会話がおかしい気がするが、そんな事も言っていたから気にしないでおこう。それにしても、敬語じゃない彼は珍しいな。私を助けに来てくれた時以来だ。きっと、仲のいい人物ならこんな風なんだろう。


……いや、寂しいなんて思ってないぞ。思っていないからな!


「それで、レディ。彼にオススメの剣と防具を持ってきてほしいんだが、いいか? 私はそういうのに疎くてね。彼に似合う物を頼めないだろうか。出来れば軽くて、加工術が施されていないのが好ましいのだが」

「そういう事ならお任せを! このマリィ、セティの事ならなんだって知ってますから、そういうのは得意ですよっ!」

「なんだっては言い過ぎだよ、マリィ」


 という彼の言葉は聞こえていないようだ。尋常じゃない速さで店の奥に入っていた。やれやれ、どんなのを持ってくるのだろうか。楽しみのような、少し不安のような。まぁ、変なのを持ってこられても、私が着る訳じゃないから、いいだろう。

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